ギョベクリ・テペ

Göbekli Tepe

  • トルコ
  • 登録年:2018年
  • 登録基準:文化遺産(i)(ii)(iv)
  • 資産面積:126ha
  • バッファー・ゾーン:461ha
世界遺産「ギョベクリ・テペ」。手前がエンクロージャーC、その奥は左からエンクロージャーA、B、D
世界遺産「ギョベクリ・テペ」。手前がエンクロージャーC、その奥は左からエンクロージャーA、B、D。現在、一帯はドームで覆われている (C) Teomancimit
世界遺産「ギョベクリ・テペ」、エンクロージャーCのストーン・サークル
世界遺産「ギョベクリ・テペ」、エンクロージャーCのストーン・サークル (C) Dosseman
世界遺産「ギョベクリ・テペ」、エンクロージャーDのストーン・サークル
世界遺産「ギョベクリ・テペ」、エンクロージャーDのストーン・サークル (C) Dosseman
世界遺産「ギョベクリ・テペ」、エンクロージャーAの丁字形石柱と動物のレリーフ
世界遺産「ギョベクリ・テペ」、エンクロージャーAの丁字形石柱と動物のレリーフ (C) Klaus-Peter Simon

■世界遺産概要

トルコ南東部、南東アナトリア地方シャンルウルファ県の県都シャンルウルファ郊外に位置する遺跡で、トロス山脈の麓に位置し、メソポタミア文明を生んだティグリス川とユーフラテス川の北の合流地点に近い。時代的には紀元前9600〜前8200年頃の先土器新石器時代を中心としており、定住農耕社会以前の定住狩猟採集民による稀有な遺跡であり、人類の建築史の最初期の遺跡とされ、「世界最古の神殿」とも称される。「テペ」はトルコ語でマウンド(墳丘・墳丘墓)を示し、直径300m・高さ15mほどのマウンド内で数々のエンクロージャー(石をドーナツ状に積み上げた工作物)やストーン・サークルといったメガリス(巨石記念物)が発掘されている。

○資産の歴史と内容

ギョベクリ・テペは古くから畑として使用されていた丘で、農民が遺物と見られる石を取り除いては作業を行っていたという。円錐形の丘であることから人工的な構築物と見る学者もおり、1963年のイスタンブール大学とシカゴ大学による共同調査では数千のフリント(火打石)が発見された。1995年にドイツ考古学研究所による本格的な発掘調査が開始され、土器を用いない先土器新石器時代から土器を用いる土器新石器時代にかけての遺跡であることが明らかになった。

マウンドは3層の層構造(表土を含めて4層)を持ち、最下層のレイヤーIIIは紀元前10000~前9000年の先土器新石器時代A期(PPNA)、続くレイヤーIIは紀元前9000~前8000年の先土器新石器時代B期(PPNB)、そしてレイヤーIは紀元前8000年紀以降の土器新石器時代の遺跡で、その上を表土が覆っている。先土器新石器時代のB期はA期と比較して石器が大型化・高品質化していることで区別されている。

最初期の層に当たるレイヤーIIIはおおよそ紀元前10000年紀の遺跡で、石を積み上げて築いた直径10~30mのドーナツ形のエンクロージャーを特徴とする。エンクロージャーは発掘や磁気による地中探査などで20基程度、石柱は200本以上が発見されており、特にA~Dの4基についてはギョベクリ・テペの象徴的なメガリスとなっている。エンクロージャーの円上には石灰岩製の丁字形石柱が8~12本ほど連なってストーン・サークルを描いており、場合によっては同心円状に二重に重なっていて、中央では2基のより大きな石柱が向かい合っている。周辺の石柱は高さ3~5mほど、中心の石柱は最大で高さ5.5m・重さ15tに達し、岩盤を掘った土台や石灰岩の台座の上に立てられている。こうした石柱には動物のレリーフが刻まれており、オーロックス(ウシの絶滅種)やイノシシ、クマ、ライオン、ヒョウ、ガゼル、キツネ、ウサギ、ハゲタカ、ツルをはじめ、哺乳類から鳥類・爬虫類・節足動物まで絵柄は多彩だ。好んで描かれているのは猛禽類やヘビ、クモ、サソリといった人類の脅威となりうる動物で、家畜はいっさい見られない。また、絵文字のような抽象的な図形が散見され、神聖なシンボルともいわれる。人物像はほとんど存在しないが、石柱の側面に人間の腕の一部と見られる絵柄が見つかっており、丁字形の頂部を頭部、下部を胴体として石柱を人物像(祖先・英雄像あるいは神像)と見る説もある。

エンクロージャーB・C・Dの中心を結ぶと正三角形が描かれることなどからエンクロージャーはそれぞれ独立して築かれたものではなく、全体としてなんらかの祭祀・儀礼の場であったと考えられる。こうしたエンクロージャー群は石灰岩やフリントの瓦礫などで意図的に埋められており、外側のエンクロージャーが役割を終えるとこれを埋め立て、内側に同心円状のエンクロージャーを築いた。

レイヤーIIIはこのように巨大なメガリスで相当数の人員が動員されており、長期にわたって継続した社会的組織の存在が示唆されている。しかし、周辺に大きな集落の跡はなく、同時代の農業や牧畜の痕跡も存在せず、一方で動物の骨は数多く出土している。こうしたことから農牧業が開始される以前の定住狩猟採取民による遺跡と考えられるようになった。この発見は、人類は農業によって定住生活を勝ち取り、巨大な建造物を築くようになったという新石器革命に関する定説を覆すもので、神殿の建設が先行して狩猟採取民が定住するようになり、その後に町が興り農業が開始されたとする仮説が提唱された。

レイヤーIIは紀元前9000年紀の遺構で、エンクロージャーが見られなくなった代わりに数多くの長方形の部屋の遺構が発掘された。石灰岩の床と壁で区切られた部屋にはドアや窓がなく、中央に最大で高さ2mの丁字形石柱が配されている。形は異なるものの基本的な構造はレイヤーIIIのエンクロージャーを引き継いでおり、やはり神殿のような宗教的な建造物と考えられている。クマのような猛獣と人間のような動物が刻まれた北アメリカのトーテム・ポールを彷彿させる石柱が発見されており、レイヤーIIIの石柱と比べて規模は小さいもののより精巧な作品となっている。

レイヤーIはレイヤーIIの上層にあたり、紀元前8000年紀の遺構だ。土器が使用されるようになり、農業、その後に牧畜が開始され、農耕社会が成立した。一方でこの宗教施設の重要性は失われ、紀元前8000年紀のどこかで石器やフリント、それらの瓦礫、動物の骨などで埋め立てられた。やがてマウンド上でも農業がはじまり、神殿の記憶は失われた。

これら遺跡の北には丁字形石柱などの石材の石切場が発見されており、切り出される前の石柱なども見つかっている。石灰岩の質はきわめて良好で、それがこの地を選んだひとつの理由と考えられている。

ギョベクリ・テペの発掘は敷地面積の数%に留まっており、またメガリスについても多くの仮説が提唱されている状態で、今後の調査・研究が大いに期待されている。

■構成資産

○ギョベクリ・テペ

■顕著な普遍的価値

本遺産は登録基準(iii)「文化・文明の稀有な証拠」でも推薦されていた。しかしICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)は、北メソポタミアの社会・儀礼・慣習を証明する重要な証拠であるという主張に対し、3つの頭蓋骨の断片のように重要な発見は続いているもののそれらは仮説であり、さらなる発掘や研究が必要であるとしてその価値を認めなかった。

○登録基準(i)=人類の創造的傑作

ギョベクリ・テペの記念碑的なメガリスを建設したコミュニティは、狩猟採集社会から最初の農耕社会への移行期という人類史の中でもっとも重要な転換期のひとつに当たる時代を生きていた。ギョベクリ・テペの記念碑的な建造物群はこうした先土器新石器時代の初期社会における人類の創造的な才能を示している。

○登録基準(ii)=重要な文化交流の跡

ギョベクリ・テペは人類による記念碑建築の最初期の表現のひとつである。この遺跡では多彩に装飾された丁字形の石灰岩柱を並べてデザインするなど革新的な建築技術が示されており、際立った建築的機能も見られる。石造の容器や研磨機といった小さな遺物や丁字形石柱に記された図像は北メソポタミアの同時期の他の遺跡でも発見されており、新石器時代の中核地域における密接な社会的ネットワークを証明している。

○登録基準(iv)=人類史的に重要な建造物や景観

ギョベクリ・テペは人類史的に重要な時期を示すメガリス構造の記念碑的建造物の卓越した例である。一枚岩の丁字形石柱は隣接する石灰岩台地から切り出されたもので、新しい時代を切り拓く建築・工学技術を証明している。これらはまた、専門の職人の存在やより階層的な人間社会の出現を示唆するものと考えられる。

■完全性

資産は顕著な普遍的価値を表現するために必要なすべての要素を含んでおり、機能や工程といった点でその重要性を伝えるために十分なサイズを有している。物理的な構造は良好な状態にあり、劣化のプロセスは監視されており、注意深く管理されている。完全性について、将来的に資産やバッファー・ゾーン周辺における鉄道のようなインフラ・プロジェクトや訪問者数の増加による悪影響が懸念される。

■真正性

ギョベクリ・テペのメガリスは建築要素のオリジナルの形状とデザインをほぼ維持しており、加えてこの遺跡を占有していた社会の生活様式を伝える数多くの装飾要素や工芸品についても保持されている。20年以上にわたる研究と考古学的発掘の成果がこの遺跡の真正性を証明している。また、1990年代半ばから行われている発掘調査では資産のさまざまな使用状況と歴史的重要性との関係についてより詳細なバランスの取れた見解が示されている。

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