スクーグシュルコゴーデン

Skogskyrkogården

  • スウェーデン
  • 登録年:1994年
  • 登録基準:文化遺産(ii)(iv)
  • 資産面積:108.08ha
世界遺産「スクーグシュルコゴーデン」、十字架の道、左はモニュメント・ホール
世界遺産「スクーグシュルコゴーデン」、十字架の道、左はモニュメント・ホール
世界遺産「スクーグシュルコゴーデン」、モニュメント・ホールと鏡の池
世界遺産「スクーグシュルコゴーデン」、モニュメント・ホールと鏡の池
世界遺産「スクーグシュルコゴーデン」、復活の礼拝堂
世界遺産「スクーグシュルコゴーデン」、復活の礼拝堂 (C) Håkan Svensson
世界遺産「スクーグシュルコゴーデン」、森の礼拝堂
世界遺産「スクーグシュルコゴーデン」、森の礼拝堂 (C) Holger.Ellgaard
世界遺産「スクーグシュルコゴーデン」、森の火葬場
世界遺産「スクーグシュルコゴーデン」、森の火葬場 (C) Arild Vågen
世界遺産「スクーグシュルコゴーデン」、森の埋葬地
世界遺産「スクーグシュルコゴーデン」、森の埋葬地
世界遺産「スクーグシュルコゴーデン」、鏡の池と左が瞑想の丘、瞑想の木立
世界遺産「スクーグシュルコゴーデン」、鏡の池と左が瞑想の丘、瞑想の木立

■世界遺産概要

スウェーデンの首都ストックホルムの南に位置する墓園で、1917年に起工した新しい世界遺産。スクーグシュルコゴーデンは「森の墓地」を意味し、自然の松林や丘を利用した風景式庭園(非対称・不均衡・曲線を特徴とする自然を模した庭園)をベースに、「森に還る」というスウェーデン古来の埋葬様式を取り入れ、古典建築や近代建築を配した原始的かつ現代的な墓園となっている。

○資産の歴史と内容

1912年、ストックホルム市議会は墓地不足から新しい墓地の建設を決定し、市中心部の南に96haの土地を購入した。南墓地と呼ばれたその土地はなだらかな丘と谷に松が茂る森が広がっており、一部は砂利の採石場として使用されていた。市議会は1914~15年に国際建築コンペティションを開催し、自然と調和しつつも墓地らしい威厳と芸術的価値を持ち、機能性をも兼ね備えた墓地のデザインを募集した。53案が集まった中で最優秀賞に輝いたのは30歳の気鋭の建築家エリック・グンナル・アスプルンドとシーグルド・レーヴェレンツによる「タラム(松の森)」という作品で、ふたりにとって初となる本格的案件だった。

スウェーデンではキリスト教以前、火葬や水葬が一般的だった。最後の審判における復活を信じるキリスト教が広がると遺体を残しておく必要から土葬への転換が図られたが、国民の70%以上が信仰するルター派プロテスタントではそこまで厳格ではなく、伝統は残った。19~20世紀に入って清潔で墓のスペースを取らない火葬が少しずつ見直され、ストックホルムの南墓地は火葬を前提とした同国初の墓地として計画が進められた。

アスプルンドとレーヴェレンツによる作品は火葬に対応したものであるのみならず、丘や谷といった自然を活かして導線を引き、松林の中に墓を配して「自然とともに生きる」「森に還る」といった古来の死生観を体現したものとなった。十字架の道や礼拝堂に見られるようにキリスト教をベースとしつつも、土葬・火葬・散骨に対応するなどあらゆる宗教に開かれた形でデザインされた。花崗岩製の十字架像についても、当初アスプルンドはキリスト教を象徴する十字架の設置をためらったが、十字架像の寄付を受け入れ、キリスト教以外にも希望や生死の象徴であるなど十字架はさまざまな解釈に対してオープンであるとした。

墓地の建設は1917年にはじまり、1920年に森の礼拝堂が完成して奉献され、墓地の使用がはじまった。アスプルンドが設計した森の礼拝堂は寄棟屋根の伝統的な木造家屋で、松の木々によく調和している。1924年にはアスプルンドによるタラム・パビリオンが完成。ピラミッド形の緑色の管理棟で、現在はビジター・センターとなっている。礼拝堂の機能を拡張するために1925年にレーヴェレンツ設計の復活の礼拝堂が竣工。こちらはコリント式のポルティコ(列柱廊玄関)やドーリア式(ドリス式)の柱廊など、ギリシア神殿を模した石造礼拝堂となっている。

1935年、市議会は機能を拡大するためにアスプルンドに火葬場と3棟の礼拝堂の建設を依頼し、1940年に完成した。森の火葬場、信仰の礼拝堂、希望の礼拝堂、聖十字架の礼拝堂、モニュメント・ホールを備えた総合施設で、いずれも黄色のトラヴァーチン(石灰質の岩石の一種)と銀色の屋根で覆われた石造建築で、直線で構成された近代的なデザインとなっている。スクーグシュルコゴーデンのランドマークとなっているモニュメント・ホールは一種のペリスタイル(列柱廊で囲まれた中庭)で、列柱廊の中央に置かれた彫刻家ヨーン・ルンドクヴィス作『復活』が開口部から差し込む光を浴びて神々しく輝いている。ホール奥が聖十字架の礼拝堂で、彫刻家ブロル・ヨルトのレリーフや画家スヴェン・エリクソンの絵画で彩られている。モニュメント・ホールに至る道は十字架の道と呼ばれ、花崗岩の十字架像がたたずんでいる。隣接するのは鏡の池で、ニレの林に囲まれた瞑想の丘を見上げている。木々と草原の丘と池という風景はスウェーデンの自然の縮図であり、聖書の風景を再現したものともいわれる。2014年には森の中に新たな森の火葬場が建設され、旧火葬場の運用は終了した。

多くの墓は松林の中にあり、整然と整理された墓地から森の中の墓地までさまざまで、骨をまく散骨場も備えている。アスプルンド自身も信仰の礼拝堂の外の墓に眠っている(レーヴェレンツの墓はマルメ)。

■構成資産

○スクーグシュルコゴーデン

■顕著な普遍的価値

本遺産は登録基準(i)(ii)で推薦されたが、世界遺産委員会は(i)「人類の創造的傑作」というよりも1900年代初頭を代表する建築であり文化的景観であるとして(i)を(iv)に変更して登録した。

○登録基準(ii)=重要な文化交流の跡

スウェーデン人建築家アスプルンドとレーヴェレンツが設計したスクーグシュルコゴーデンは世界中の墓地デザインに多大な影響を与え、墓地の新しい形を確立した。

○登録基準(iv)=人類史的に重要な建造物や景観

スクーグシュルコゴーデンの景観・建築デザインは20世紀初頭を代表するものであり、その高いクオリティによって墓地に見事に適応している。

■完全性

資産には松林や森の礼拝堂(1920年)、タラム・パビリオン(1923~24年)、復活の礼拝堂(1925年)、共同霊安所や火葬場を備えた信仰・希望・聖十字架の礼拝堂(1937~40年)、十字架の道と十字架像、そして周囲4kmに及ぶ花崗岩製の壁などが含まれており、顕著な普遍的価値を表現するために必要なすべての要素を網羅している。バッファー・ゾーンは設定されていないが、開発や放棄といった脅威には直面していない。資産に対する潜在的な脅威としては、樹木の病害などが挙げられる。

■真正性

スクーグシュルコゴーデンはその位置・環境・形状・デザイン・素材・原料・使用・機能・精神・感性といった点で本物であり、真正性を維持している。一帯の整備・修復は本来のデザイン・コンセプトや雰囲気、墓地としての用途や機能が維持される形で進められており、松林の中の植栽や生活資材に至るまで慎重に行われている。埋葬サービスの現代的な需要に伴う開発に対しては最大限の配慮をもって対処されている。

資産に対する脅威・リスクとしては、環境・開発に関する圧力が挙げられる。スクーグシュルコゴーデンの樹木の大半は寿命を迎えており、松の木は減少している。資産を特徴付けている松の回廊の再生は主要課題のひとつであり、新たな松の植栽が必要である。また、車での来訪者のアクセスや駐車場の確保、舗装など重機を使用した維持管理といった現代的な需要に関する問題は真正性に影響を与える可能性を有している。さらに、スクーグシュルコゴーデンは都市圏にあるため、都市の拡大や周辺施設の開発に伴うリスクも発生している。

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