アタプエルカの考古遺跡

Archaeological Site of Atapuerca

  • スペイン
  • 登録年:2000年
  • 登録基準:文化遺産(iii)(v)
  • 資産面積:284.119ha
世界遺産「アタプエルカの考古遺跡」、アタプエルカ山地
世界遺産「アタプエルカの考古遺跡」、アタプエルカ山地
世界遺産「アタプエルカの考古遺跡」、トリンチェラ・デル・フェルカルリのサルパソス洞窟
世界遺産「アタプエルカの考古遺跡」、トリンチェラ・デル・フェルカルリのサルパソス洞窟

■世界遺産概要

アタプエルカはスペイン北部カスティリャ・イ・レオン州に位置する都市で、市内中心部から南西2.5~3.0kmほどに位置するアタプエルカ山地では新生代第四紀更新世(約258万~1万年前)から完新世(約1万年前~現在)まで100万年以上の長い年代にまたがる数多くの遺跡が発掘されている。特に原人のホモ・ハイデルベルゲンシス、旧人のネアンデルタール人の多数の化石や石器が出土しており、議論はあるもののヨーロッパ最初の人類(ホモ属)の化石や人類最古の埋葬跡も発見されている。

○資産の歴史と内容

アタプエルカ山地は緩やかに傾斜した標高1,085mほどの尾根で、山体自体は1億年以上前の古生代や中生代の地層だが、周辺には2,500万~500万年前の新生代に堆積した石灰岩層が見られ、500万年ほど前から隆起したものと考えられている。石灰岩は水が浸透しやすく水に溶けやすいため500万年にわたる侵食によって洞窟群をはじめとする数多くのカルスト地形が形成された。100万年ほど前からこうした洞窟を利用して初期人類が活動を行った。

こうした洞窟群は中世には知られており、10世紀にすでに近郊のサン・ペドロ・デ・カルデニャ修道院などに記録がある。19世紀の終わりにブルゴスとシエラ・デ・ラ・デマンダを結ぶ鉱山鉄道が敷設されたが、このとき深さ約20mの溝が掘られ、重要な地層(トリンチェラ・デル・フェルカルリ)が露出した(鉄道は1910年代に廃業)。本格的な発掘は1960年代から開始されたが、特に1990年代に90万年前までさかのぼる石器が出土し、1997年にはヨーロッパ最古となる80万年前の原人の化石が発掘された。近年では100万年を超える化石も発見されており、ヨーロッパでも際立って古いホモ属の証拠として注目を集めている。

考古遺跡は大きく3つのグループ、トリンチェラ・デル・フェルカルリ(鉄道溝)、マヨール洞窟、その他に分けられる。トリンチェラ・デル・フェルカルリの有力発掘地にはシマ・デル・エレファンテ(ゾウ坑)、ガレリア(ギャラリー)、サルパソス洞窟(爪洞窟)、グラン・ドリナ(大渓谷)、ファンタスマ洞窟(幽霊洞窟)などが挙げられる。南東に位置するマヨール洞窟にはシマ・デ・ロス・ウエソス(骨坑)、ポルタロン(門)、ガレリア・デル・シレックス(フリントのギャラリー)、ガレリア・デ・ラス・エスタウアス(彫像のギャラリー)などがある。また、これ以外にはミラドール洞窟(奇跡洞窟)、オルキデアスの谷(ランの谷)がよく知られている。

トリンチェラ・デル・フェルカルリのグループではヨーロッパ最古級のホモ属の化石が発掘されている。グラン・ドリナでは65万年ほど前に誕生したと考えられているホモ・ハイデルベルゲンシスの化石が出土しているほか、90万~80万年前と見られる新しいホモ属の化石が発見され、「最初のヨーロッパ人」ホモ・アンテセッサーと名付けられた。ただし、ホモ・アンテセッサーはアタプエルカ山地以外で発見されていないため異論もある。これらの人骨の一部に道具で切り裂かれた形跡があり、共食いの跡と考えられている。また、シマ・デル・エレファンテでは近年、120万~100万年前と見られる化石が出土した。こちらもホモ属だが、種は特定されていない。ガレリアは比較的新しく40万~20万年前の遺跡と考えられている。2016年に発見されたばかりのファンタスマ洞窟は150万年前の堆積層を持ち、新たな発見が期待されている。こうした人類の化石の他にウマやシカ、サーベルタイガーやハイエナ、ホラアナグマといった動物の化石やフリント(火打石)をはじめとする石器も発掘されており、当時の環境や文化、生活スタイルを知る重要な手掛かりとなっている。

一方、マヨール洞窟はそれよりやや新しい化石が多い。中心となるのは数多くの人骨が発掘されることから「骨の坑」の名が付いたシマ・デ・ロス・ウエソスで、6,500点・32体以上の化石が発見されている。43万年前までさかのぼるホモ・ハイデルベルゲンシスあるいはその子孫であるネアンデルタール人の化石と見られる。人骨があまりに集中している点と、動物の骨や石器などの道具類が少ない点から墓地や聖域だったとする説もあり、その場合は人類最古の埋葬跡となる。エクスカリバーと名付けられた手斧と見られる打製石器が発見されているが、高度な文化を示すだけでなく、副葬品であれば高い思考力と感情表現を示すものとして注目を集めた。ガレリア・デル・シレックスは新石器時代と青銅器時代の遺跡で、狩猟や人間・動物などを描いた約50点の壁画や彫刻が残されているほか、数多くの人骨や動物の骨が発掘されている。ポルタロンも同時期の遺跡で、青銅器や陶器・骨角器・象牙などの装飾品が出土している。

■構成資産

○アタプエルカの考古遺跡

■顕著な普遍的価値

○登録基準(iii)=文化・文明の稀有な証拠

アタプエルカ山地の洞窟群ではヨーロッパでもっとも古く、もっとも豊富な人類の証拠が発見されている。

○登録基準(v)=伝統集落や環境利用の顕著な例

アタプエルカ山地の化石はヨーロッパにおける最古の人類の身体特性と生活様式について卓越した情報を提示している。

■真正性

アタプエルカの考古遺跡は更新世と完新世の堆積層について必要なすべての要素を含んでおり、顕著な普遍的価値を表現するのに十分なサイズを有し、法的保護を受けている。きわめて豊富で高品質な化石や遺物が出土するアタプエルカ山地の石灰堆積層の考古学・古生物学の遺跡群はその多くが洞窟であり、いくつかは鉄道敷設のために掘った溝によって露出し、ほとんどが手付かずの状態で発見された。これらは初期人類や動物の物理的特徴のみならず過去の環境や生活スタイルを雄弁に物語っている。

資産は人口がまばらで、法的にも最高レベルの保護を受けている自然域であるため開発圧力による悪影響は見られない。自治体は特に視覚的な完全性について資産に起こりうる負の影響を抑制するための法的枠組みを有している。また、カスティリャ・イ・レオン州は専門のスタッフを派遣して適切な保護と監視活動を行っており、完全性の維持に尽力している。

■完全性

資産内の自然洞窟群は先史時代から現在に至るきわめて重要な考古学的・古生物学的史料を含む地層を有しており、保全に留意して科学的に発掘されている。真正性は完全に維持されている。

■関連サイト

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