ペタヤヴェシの古い教会

Petäjävesi Old Church

  • フィンランド
  • 登録年:1994年
  • 登録基準:文化遺産(iv)
  • 資産面積:2.98ha
  • バッファー・ゾーン:48.44ha
世界遺産「ペタヤヴェシの古い教会」、ソリッコヤルヴィ湖と古い教会
世界遺産「ペタヤヴェシの古い教会」、ソリッコヤルヴィ湖と古い教会。スカンジナビア半島では教会堂は湖畔に築かれることが多かった (C) Teuvo Salmenjoki
世界遺産「ペタヤヴェシの古い教会」、鐘楼(左の塔)と教会堂(右)、墓地(手前)
世界遺産「ペタヤヴェシの古い教会」、鐘楼(左の塔)と教会堂(右)、墓地(手前)(C) Mikko.Tenhunen
世界遺産「ペタヤヴェシの古い教会」、鐘楼(左)と教会堂(右)。壁面を構成するログと、魚の鱗のような屋根の杮板が確認できる
世界遺産「ペタヤヴェシの古い教会」、鐘楼(左)と教会堂(右)。壁面を構成するログと、魚の鱗のような屋根の杮板が確認できる (C) Tiia Monto
世界遺産「ペタヤヴェシの古い教会」、教会堂内部。右手前が身廊で奥が主祭壇。左下に突き出しているのが説教壇
世界遺産「ペタヤヴェシの古い教会」、教会堂内部。右手前が身廊で奥が主祭壇。左下に突き出しているのが説教壇 (C) Antti Bilund
世界遺産「ペタヤヴェシの古い教会」、木材を積み上げて作った独創的なドームやアーチ
世界遺産「ペタヤヴェシの古い教会」、木材を積み上げて作った独創的なドームやアーチ (C) Antti Bilund

■世界遺産概要

ペタヤヴェシはフィンランド中南部・中央スオミ県の町で、1763~65年に建設されたプロテスタント・ルター派(ルーテル教会)の教会堂が登録されている。地元の棟梁がスカンジナビア半島東部の伝統的な木造建築をベースに築いたログハウス(丸太=ログで築いた建築物)で、ゴシック様式やルネサンス様式、バロック様式の影響を受けた独自の意匠を見せている。

○資産の歴史と内容

18世紀、ペタヤヴェシの一帯はプロテスタント・ルター派のヤムサ教区に属していたが、教区教会のあるヤムサの町から40~50kmも離れているため礼拝堂の建設が待望された。18世紀前半に人々は町の南、ソリッコヤルヴィ湖とヤムサンヴェシ湖の間に突き出した半島状の土地に自費で建設することを計画。ヤムサ教会をはじめ地元の教会堂の設計・建設に実績のあった棟梁ヤーコ・クレメティンポイカ・レッパネンに依頼し、1763~65年に建設が進められた。1821年には孫であるエルッキ・ヤーコンポイカ・レッパネンが教会堂の西に鐘楼、東に聖具室を増築し、現在見られる姿が完成した。

教会堂は「+」形のギリシア十字形の平面プランで、17×7mの長方形が重なって十字を作る形となっている。「ブロックバウ "Blockbau"」と呼ばれる伝統的な木造建築で、石を並べた基礎の上に木材を水平に積み上げたログハウスだが、丸太をそのまま組んだものではなく、マツを板状に加工したログを水平に積み上げている(板倉造)。屋根は寄棟造(4つの面を持つ屋根構造)で、頂部の棟がクロスして十字を際立たせている。屋根は魚の鱗のような杮板(こけらいた)を貼り合わせた杮葺き(こけらぶき)で、太陽との位置関係によっては金属のような銀色の光沢を見せる。外観の三角形と四角形の組み合わせや内部の半円アーチや八角形ドームといった幾何学構造はルネサンス様式の影響で、急勾配を持つ屋根やアーチを組み合わせた高い天井・尖塔はゴシック様式、彫刻やレリーフなどの内装はバロック様式の影響を受けている。特に、木をたわませるのではなく、板を積み上げてアーチを組む技術は独特だ。説教壇や信徒席、手すり、シャンデリアなどは地元の職人たちの作品で、特に説教壇は使徒や天使の木像で飾られたユニークなものとなっている。

教会堂の西に立つ鐘楼も教会堂と同様のログハウスで、曲線の屋根と白く塗られた上階を持ち、光り輝く杮葺きの屋根とともに景観にアクセントを加えている。教会堂と鐘楼を結ぶ廊下と聖具室は縦ログ(ログを縦に並べた構造)で、屋根は板葺きだ。これらの建物の周囲は木柵で囲われており、内部に墓地が広がっている。墓地はフィンランドの伝統的なもので、1729~2009年の間に約9,400人が埋葬された。

ペタヤヴェシは1867年にペタヤヴェシ教区として独立し、1879年には湖の北東対岸に新しくペタヤヴェシ教会が建設された。これを受けて古い教会は教会としての機能を失ったが、鐘楼と墓地は引き続き使用された。

1920年代にオーストリアの美術史家ヨーゼフ・ストルツィゴウスキーがその歴史的・建築的価値を訴えてから注目が集まり、1929年頃から大規模な修復キャンペーンが始動した。修復は建設当初の姿を再現することが優先され、伝統的な技術と素材を使用し、経年変化による木材の交換等を除いて介入は最小限に抑えられた。このため当時と同様に暖房設備さえ導入されておらず、教会としての使用が再開された現在でも使用は夏季に限られている。

■構成資産

○ペタヤヴェシの古い教会

■顕著な普遍的価値

○登録基準(iv)=人類史的に重要な建造物や景観

ペタヤヴェシの古い教会は北ヨーロッパの木造教会建築の伝統を伝える際立った例である。

■完全性

資産は教会堂に加えて木柵に囲まれた墓地、周辺の田園や湖畔といった景観をはじめ顕著な普遍的価値を表現するために必要なすべての重要な要素を含んでいる。ただ、1960年代に教会堂の南に高速道路が建設され、現状より広い意味で農業景観の完全性が損なわれてしまった。バッファー・ゾーンは教会堂の周囲に広がる農業景観と湖畔の全域を含んでおり、適切である。資産の完全性を脅かす可能性がある要素として、気候変動が挙げられる。

■真正性

ペタヤヴェシの古い教会は形状・構造・素材の点で北ヨーロッパの伝統的な木造教会建築の本質と精神を忠実に表現している。教会堂は19世紀後半に新しい教区教会の建設に伴って放棄されたため、暖房設備の設置といった大きな改修を受けておらず、良好な保存状態が維持されている。暖房が備わっていないため、教会堂は現在、夏の間の使用に限られている。これまで保全作業に際しては伝統的な技術や素材を用いて行われており、教会堂の有形的な価値や、精神といった無形的な価値を維持するために介入は最小限に留められている。18世紀に整備された教会堂周辺の墓地は現在も使用されており、その機能を保っている。

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