スケリッグ・マイケル

Sceilg Mhichíl

  • アイルランド
  • 登録年:1996年
  • 登録基準:文化遺産(iii)(iv)
  • 資産面積:21.9ha
世界遺産「スケリッグ・マイケル」の修道院跡
世界遺産「スケリッグ・マイケル」の修道院跡 (C) Towel401

■世界遺産概要

スケリッグ・マイケルはアイルランド島の南西11.6kmに浮かぶ島で、半ば隔絶された環境の中で修道士たちがキリスト教の修行を行ったその跡が残されている。古代のアイルランド語で「スケリッグ」は岩、「マイケル」は大天使ミカエルを意味する。

○資産の歴史と内容

大西洋から鋭く立ち上がったふたつの頂を持つ島で、北東の頂は標高185m、南西は218mに達し、ふたつの頂の間には「キリストの谷」あるいは「キリストの鞍」と呼ばれる谷が形成されている。地層は4億~3億年前の古いもので、長年にわたる風雨と海の侵食を受けて切り立っており、あちらこちらに断崖が見られる。周囲の海流は速く、波も荒く、特に冬は嵐が多いことから島に入る人間は少なかったが、こうした厳しい環境を利用して古くから修道士たちが修行を行っていた。

島には東、南、北に3つの入り江、盲目の入り江、十字架の入り江、青の入り江があり、ここから上陸した。ただ、入り江は狭く波が高いため上陸は困難を極め、たとえば青の入り江は1年のうち夏の20日ほどしか接岸できなかったという。こうした入り江から標高130mほどのキリストの谷まで修道士たちが石を積み上げて築いた参道が走っている。キリストの谷からふたつの頂までは「キリストの道」と呼ばれる巡礼路で、急斜面にやはり階段が設けられている。

北東の頂の近く、標高180m付近には修道院が築かれた。伝説によると6世紀に聖フィオナンが開いたものとされ、8世紀の修道院の記録が残されている。2棟の礼拝堂、6軒の小屋、聖ミカエル教会、墓地などの跡があり、礼拝堂や小屋はいずれも薄い板状の石を少しずつ内側に張り出させたコーベル・アーチ(持送りアーチ。疑似アーチ)による円錐形のドームを形成している。聖ミカエル教会は大天使ミカエルに捧げられた教会堂で、島の外から砂岩を持ち込んで10~11世紀頃に築かれたが、現在はほとんど倒壊している。

一方、南西の頂付近は「エルミタージュ」と呼ばれ、オラトリー、ガーデン(あるいはドゥウェル)、アウターと呼ばれる3つのテラスが広がっている。標高200mに位置するオラトリー・テラスには9世紀に築かれたと伝わる石造の礼拝堂跡があり、アイルランドの初期キリスト教建築の遺構が残されている。エルミタージュへのアクセスは危険であるため一般に公開されていないほどで、特にアウター・テラスは断崖絶壁に石が積まれている。不必要であるほどの難所に築かれていることから、石積みは修行の一環だったともいわれる。

12世紀にヴァイキングの襲来や気候悪化のため修道院はアイルランド島のバリンズケリグス修道院に移転した。ただ、教会や墓地は維持され、16世紀頃まで巡礼地として巡礼者を集めていた。1578年、イングランド王エリザベス1世の時代に反乱が起き、バリンズケリグス修道院は廃止され、スケリッグ・マイケルもアウグスチノ会の手を離れた。しかし、この時代にはすでに島の教会は倒壊していた。

近年では映画スター・ウォーズ・シリーズの7~9作にあたる『フォースの覚醒』『最後のジェダイ』『スカイウォーカーの夜明け』でルーク・スカイウォーカーが潜んでいた場所として登場して話題となった。

■構成資産

○スケリッグ・マイケル

■顕著な普遍的価値

この遺産は登録基準(i)「人類の創造的傑作」でも推薦されていたが、文化遺産の調査・評価を行っているICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)はその価値を認めなかった。

○登録基準(iii)=文化・文明の稀有な証拠

初期キリスト教施設として傑出したもので、北アフリカや中東から広がったキリスト教の修道活動の北西端となり、その様子を伝える他に例のない証拠である。

○登録基準(iv)=人類史的に重要な建造物や景観

海によって隔絶された環境を利用した宗教開拓地のユニークで際立った例であり、環境との調和もすばらしく、保存状況もきわめてよい。

■完全性

資産は約21.9haで、顕著な普遍的価値を示すすべての要素が含まれている。島全体が世界遺産の資産となっており、国所有の国定史跡で国内法の保護下にある。バッファー・ゾーンは設定されていないが、海が実質的にその役割を果たしている。

スケリッグ・マイケルは構造的・歴史的完全性と、視覚的・美的完全性、2つの完全性を保持している。前者は時間とともに進化した構造部分で、後者は景観を含めた象徴的なイメージである。

スケリッグ・マイケルの修道院とエルミタージュはユニークな芸術的成果を示している。中世初期の修道院集落の傑出した例であり、保存状態もよさも貴重である。長い期間にわたって修道士たちが活動を続けた結果、強い精神性が吹き込まれており、島の劇的な地形と修道院の人的要素が調和して類まれな景観を育んでいる。

現代においても島へのアクセスは10~5月の夏場に限られており、上陸する観光客数もコントロールされている。

■真正性

スケリッグ・マイケルは隔絶された環境にあり、島には19世紀に建てられた灯台以外に近代・現代の建造物もない。開発や建物・遺跡の改変もなく、真正性は高いレベルで維持されている。

修道院内のほとんどの建造物は当時のまま手つかずで、階段状のテラスや舗装エリアも同様であり、全体的なレイアウトもそのままである。

保全作業は1880年代に州の保護下に入ったときにはじまり、1930年代にも小規模の修復が実施されている。現在の保護・保全プログラムは過酷な環境や時間による経年変化、観光圧力の高まりを受けて1978年に開始され、ステップや壁・個々の建造物の安定化を目的として構造強化や修復が図られた。作業は調査や写真を通して綿密に記録され、修道院の構造とレイアウトに関する驚くべき証拠を明らかにしている。

1986年には主要な保全作業がはじまり、テラスと石垣の修復を行った。こうした作業は考古学的調査と並行して実施されており、真正性に十分配慮されている。

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