ドロミーティ

The Dolomites

  • イタリア
  • 登録年:2009年
  • 登録基準:自然遺産(vii)(viii)
  • 資産面積:141,902.8ha
  • バッファー・ゾーン:89,266.7ha
世界遺産「ドロミーティ」、ガルデナ峠
世界遺産「ドロミーティ」、プエツ・オードレ自然公園
世界遺産「ドロミーティ」のトレ・チーメ自然公園、トレ・チーメ・ディ・ラヴァレード
世界遺産「ドロミーティ」のトレ・チーメ自然公園、正面の3つの岩はトレ・チーメ・ディ・ラヴァレード
世界遺産「ドロミーティ」、クロダ・ダ・ラーゴ
世界遺産「ドロミーティ」、クロダ・ダ・ラーゴ
世界遺産「ドロミーティ」、「ドロミーティの宝石」と讃えられるカレッツァ湖。背景はラテマール山地
世界遺産「ドロミーティ」、「ドロミーティの宝石」と讃えられるカレッツァ湖。背景はラテマール山地 (C) Olga1969

■世界遺産概要

イタリア北東部の東アルプス山脈に広がる山域で、9件の構成資産の総面積は141,902.8haに及び、3,000mを超える18峰を有する。尖峰や断崖絶壁、氷河地形やカルスト地形などダイナミックで多彩な山岳風景が展開し、中生代の化石がしばしば出土することでも知られる。名前の由来は18世紀のフランスの地質学者デオダ・ド・ドロミューで、この山域で石灰石が堆積して変成したドロマイト(苦灰岩)を発見した。

○資産の歴史と内容

ドロミーティの地層は2億5,000万年以上前からサンゴやプランクトンなどの生物の死骸が堆積してできた石灰岩がベースで、圧力によって変成して一部はドロマイトとなった。ユーラシア・プレートがアフリカ・プレートに衝突して沈み込むアルプス造山運動でアルプス山脈が隆起し、2,000万年ほど前にドロミーティの山域が誕生した。最高峰はマルモラーダ山の標高3,342mで、アンテラオ山の3,263m、トファーナ・ディ・メッツォ山の3,244m、クリスタロ山の3,221m、ソラピス山の3,205mをはじめ3,000m峰18座を有する。

258万年前にはじまる新生代第四紀の氷河時代に山々は氷河によって鋭く削られ、氷河の通り道にできるU字谷や取り残された険しい峰・ホルン、クレーター状に穴を穿った圏谷(けんこく)、のこぎり状の山稜・アレート、石や土を削って堆積させたモレーン、えぐられた窪地・コリー、窪地にできた氷河湖など、あらゆる氷河地形を生み出した。また、石灰岩やドロマイトは水が浸透しやすく水に溶けやすいため風雨の侵食を受け、柱のような岩=ピナクル、溝がついたカレン、塔のようなタワー・カルストといったカルスト地形も広がっている。こうした地形は地滑りや雪崩・洪水を頻繁に引き起こしてさらに複雑な地形を生み、現在も造山活動が進んでいる。

ドロミーティの地質学的重要性は中生代の地層がよく保存されている点にある。特に生物種の90%以上が絶滅した2億5,000万年前のP-T境界(古生代ペルム紀と中生代三畳紀の境界)の大量絶滅とそれ以降の三畳紀の化石は特筆すべきもので、三畳紀中期のラディニアン階と呼ばれる時代区分はドロミーティのラディン人やラディン語を語源としている。地質学者デオダ・ド・ドロミューやジョバンニ・アルドゥイーノ、地質学者で古生物学者でもあるレオポルト・フォン・ブーフ、古生物学者エドマンド・モジソビッチ、地理学者アレクサンダー・フォン・フンボルトやフェルディナント・フォン・リヒトホーフェンをはじめ数多くの科学者がドロミーティで研究を行っており、研究成果はプレート・テクトニクス理論や古代の生態系・気候をはじめ地球史の解明に大きく貢献している。

また、その美しい景観はイタリアやオーストリアをはじめ貴族たちを魅了し、画家アルブレヒト・デューラーや作家ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテをはじめ多くの芸術家たちに愛された。

■構成資産

○ペルーノ-クロダ・ダ・ラーゴ

○マルモラダ

○パーレ・ディ・サン・マルティーノ、サン・ルカーノ-ドロミーティ・ベッルネーシ-ヴェッテ・フェルトリーネ

○ドロミーティ・フリウラーネとドルトレ・ピアーヴェ

○ドロミーティ・セッテントリオナーリ・カドリーン、セット・サッス

○プエツ・オードレ/プエツ・ガイスラー/ポーズ・オードレス

○シーリアル=カティナッチョ

○リオ・デッレ・フォリェ

○ドロミーティ・ディ・ブレンタ

■顕著な普遍的価値

○登録基準(vii)=類まれな自然美

ドロミーティは世界でもっとも魅力的な山岳風景のひとつである。その美しさは平野や丘陵から突如立ち上がる断崖や岩山、ホルンやピナクルといった鋭い垂直構造に由来し、ダイナミックな景観で人々を魅了する。特に1,500mを超える石灰岩壁は世界最高を誇る。さらに白い岩肌と森や草原のコントラストが色彩の多様性をもたらし、地形の複雑性を加速している。"dolomitic"(ドロミティック/ドロミーティ的)といわれるこうした美的要素は地質学者や芸術家の絵画や写真・文章によって伝えられ、人々に学術的・芸術的なインスピレーションを与えた。

○登録基準(viii)=地球史的に重要な地質や地形

ドロミーティは石灰岩やドロマイトが形成した古い地形であり、侵食やテクトニズムや氷河に関連した広範な証拠があり、地形学にとって国際的に重要である。ホルン、タワー、ピナクル、世界でもっとも高い垂直岩壁などを含んでおり、石灰岩層の量・密度・多様性は際立っている。また地質学においても国際的重要性を有し、中生代の炭酸塩プラットフォームあるいは化石化した環礁の卓越した証拠で、二畳紀・三畳紀境界以降の生物の進化や生物由来の地形の変化の様子を示しており、三畳紀のきわめて重要な地層を含んでいる。こうした地形学的・地質学的価値は長い歴史を誇る国際的な研究と知見によって形成されており、現在も進行中である。

■完全性

9件の構成資産には顕著な普遍的価値を持つ美的要素と科学的要素のすべてあるいはほとんどが含まれており、全域が国立公園や州立自然公園、ナチュラ2000(EUの保護区ネットワーク)、天然記念物として法的に保護されている。また、資産外部の脅威から保護するためにそれぞれの構成資産の周囲にはバッファー・ゾーンが設定されており、こちらも多くが法的保護下にある。構成資産はイタリアの5つの県にまたがるが、共通の管理システムで連携しており、自然と景観はよく保全されていて開発による影響もほとんど受けていない。

■関連サイト

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