ルーレオーのガンメルスタードの教会街

Church Town of Gammelstad, Luleå

  • スウェーデン
  • 登録年:1996年
  • 登録基準:文化遺産(ii)(iv)(v)
  • 資産面積:16.402ha
  • バッファー・ゾーン:243.474ha
世界遺産「ルーレオーのガンメルスタードの教会街」、ネーデルーレオー教会と街並み
世界遺産「ルーレオーのガンメルスタードの教会街」、ネーデルーレオー教会と街並み (C) Tortap
世界遺産「ルーレオーのガンメルスタードの教会街」、ネーデルーレオー教会
世界遺産「ルーレオーのガンメルスタードの教会街」、ネーデルーレオー教会 (C) Lars Falkdalen Lindahl
世界遺産「ルーレオーのガンメルスタードの教会街」、ガンメルスタードの街並み
世界遺産「ルーレオーのガンメルスタードの教会街」、ガンメルスタードの街並み (C) Gammelstad1

■世界遺産概要

バルト海最奥部のボスニア湾北部に位置するルーレオー近郊の町ガンメルスタード。15世紀に築かれたネーデルーレオー教会を中心に築かれた教会街(教会城下町)で、教会の周囲に424棟の伝統的木造家屋が立ち並んでおり、400年前と変わらぬ景観を伝えている。

○資産の歴史と内容

約7万~1万年前の最終氷期、スカンジナビア半島やフィンランドといったフェノ=スカンジア地方は厚さ3kmを超える巨大な氷床に覆われており、その重みで土地は沈降していた。こうした氷床が溶けてバルト海沿岸周辺が隆起し、現在も100年に1m程度のペースで続いている(この現象をグレイシオ・ハイドロアイソスタシーというが、詳細は世界遺産「ヘーガ・クステン/クヴァルケン群島」参照)。このため1,000年ほど前、ボスニア湾の海水面は現在よりも10mほども高く、ガンメルスタードはルーレ川の河口の小さな島だった。もともとルーレオーはこの土地の名前で、13世紀には肥沃な河口部に港と農村が築かれていた。北のラップランド(ラポニアン・エリアは世界遺産)とバルト海を結ぶ貿易を行い、木材や毛皮・魚を取引した。14世紀、スウェーデンはロシアと北方の版図を競い、ウプサラ大司教がこの地に礼拝堂を建てて入植を図った。1339年には丘の上に木造の小さな礼拝堂が立っていたようだ。

15世紀後半、木造の礼拝堂はスカンジナビア北部で最大を誇る石造教会堂に建て替えられた。これが現在見られるネーデルーレオー教会だ。この教会堂を中心にルーレオー教区には16世紀半ばまでに47村約400戸が展開していたという。しかし、村々はルーレオーから離れていて日帰りで訪ねられない人も多く、礼拝に参加するのも簡単ではなかった。このため教会は簡易宿泊施設と馬小屋(特に冬の雪や寒さからウマを保護する必要があった)を備え、遠方の村人は週末を教会堂で過ごすのが通例となっていた。貿易が盛んになるとルーレオーの港近くで生活する必要が生じ、教会堂の周囲に木造家屋と馬小屋が集まるようになった。教会が日曜礼拝と祭祀への参加を義務付けるとスウェーデン北部ではこのような教会街が発達し、その数は71に及んだという。

この時代までに海水面が下がって町は河口ではなくルーレ川の河畔となり、古い港の使い勝手は悪くなっていた。また、貿易を行う町は制限されていたため新たに交易都市を造る必要が生じ、1621年、スウェーデン王グスタフ2世アドルフ(グスタフ・アドルフ)によって河口の市場周辺に新たな港湾都市が建造された。新都市はオロフ・ブレによってルネサンス的な方格設計(碁盤の目状の整然とした都市設計)でデザインされ、商業を生業とする多くの住民が新市街に移った。ルーレオーの町はこの新市街に引き継がれ、もともとの町は旧市街を意味するガンメルスタードに改名された。ガンメルスタードでも南から東にかけて方格設計のグリッド構造が見られるが、これは新市街の影響を受けて17世紀に開発された一帯だ。

ガンメルスタードは教会を中心とした町としてありつづけ、工業化からも取り残された代わりに古い街並みをそのまま残すこととなった。家畜を中心とした生活スタイルが続いたため家族全員が家を離れることができず、年長者の祝日や年少者の集いといった習慣も引き継がれた。鉄道が敷かれ、自動車が一般化した20世紀に馬小屋は見られなくなったが、ガンメルスタードの新しい家々は丘の下に建設され、古い街並みはそのまま残された。

現在、ガンメルスタードの教会街はネーデルーレオー教会から放射状に広がる中世の街並み、17世紀の方格グリッド構造、20世紀の街並みの3地域からなっている。世界遺産の資産となっているのは中世の街並みで、グリッド構造を含む周辺部はバッファー・ゾーンに含まれている。中世の街並みには離れを含めて555部屋・424棟の木造家屋が立ち並んでいる。伝統的な木造家屋は赤く塗られた外壁と白い窓枠が特徴で、四角形の煙突が突き出している。多くの建物は1817年以前の建築で、損傷すると同じように修復され、大切に伝えられている。

町のランドマークであるネーデルーレオー教会は15世紀後半、一説では1492年の奉献で、全長48m・幅16m・身廊の高さ12mを誇る。バシリカ式(ローマ時代の集会所に起源を持つ長方形の様式)・単廊式(身廊のみで側廊を持たない様式)の教会堂で、ゴシック様式のヴォールト天井やクワイヤ(内陣の一部で聖職者や聖歌隊のためのスペース)は建設当時のものを引き継いでいる。傑作として名高い祭壇画は1520年に設置されたもので、18世紀にバロック様式の説教壇が追加された。1852年には隣に鐘楼が増築されている。

他に特筆すべき建物として、教会広場にたたずむベテル礼拝堂が挙げられる。1806~1908年まで宿泊施設だった建物で、バプテストの礼拝堂として改装され、現在は観光局が入っている。1754年建設の教区館は行政局・評議会・裁判所・刑務所として使用されていた建物だ。これ以外にも市長の家、船長の家、分離主義者の家、タイズ・バーン(教会への十分の一税にあたる農産物を収納する納屋)、旅館や数多くの民家が残されている。

■構成資産

○ルーレオーのガンメルスタードの教会街

■顕著な普遍的価値

○登録基準(ii)=重要な文化交流の跡

ガンメルスタードの教会街はそれまでの伝統的都市デザインを過酷な自然環境や特殊な地理的・気候的条件に適応させた見事な実例である。数世紀にわたって有機的に発展した町の都市構造の全体が保存されている。

○登録基準(iv)=人類史的に重要な建造物や景観

ガンメルスタードはスカンジナビア北部に築かれた伝統的な「教会街」の際立った例である。教会街のもっとも代表的な例であると同時に、経済的・地理的条件で築かれたものではなく、人々の宗教的・社会的なニーズによって形成された教会街の典型である。ガンメルスタードは現在も教会街として運営されており、同様の集落の中でもっとも古く、もっとも完全で、もっとも保存状態が良好である。

○登録基準(v)=伝統集落や環境利用の顕著な例

ガンメルスタードの教会街ではいまなお週末を教会近くに滞在して過ごすという古くからの習慣が伝えられている。北ヨーロッパでほとんど見られなくなったこうした生活スタイルや建物が400年前から変わらずに維持されており、人々は古くからの農村生活と新しい都市生活を驚くべき方法で融合させている。

■完全性

資産は教会街全体をカバーしており、教会・教会施設・公共施設・民家といった建物から放射状に広がる中世の通りまで、顕著な普遍的価値を示す重要な要素をすべて含んでおり、完全性は維持されている。16.402haの資産の周囲には243.474haのバッファー・ゾーンが設けられており、開発や放棄による悪影響を受けていない。

■真正性

数世紀にわたって有機的に発達した都市構造の全体が保存されており、ガンメルスタードの教会街の真正性のレベルはきわめて高い。建物についても形状・素材とも本物であり、修復も真正性を損なわない形で行われている。都市計画にもこうした点が反映されており、修復や保全作業に関する厳しい規定が設けられている。特に教会や関連施設、ベテル礼拝堂、教区館、タイズ・バーン、市長の家、船長の家、分離主義者の家、ゲストハウス、いくつかの民家、道路網の保存状態は非常によい。真正性に否定的な変化が若干見られる建物も存在するが、全体として大きな影響はない。

ただ、2006年にバッファー・ゾーンに建設された高さ48mの通信マストは景観に悪影響を与えている。これまで大きな火災は起こっていないが潜在的な脅威であり、また建物が伝統的な方法で使用されなくなってきていることも懸念材料といえる。

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