シュコツィアン洞窟群

Škocjan Caves

  • スロベニア
  • 登録年:1986年
  • 登録基準:自然遺産(vii)(viii)
  • 資産面積:413ha
世界遺産「シュコツィアン洞窟群」の陥没地、マラ・ドリーネ
世界遺産「シュコツィアン洞窟群」の陥没地、マラ・ドリーネ
世界遺産「シュコツィアン洞窟群」、レカ川に沿って見学ルートが整備されている
世界遺産「シュコツィアン洞窟群」、レカ川に沿って見学ルートが整備されている (C) Guy Fawkes
世界遺産「シュコツィアン洞窟群」の鍾乳石群
世界遺産「シュコツィアン洞窟群」の鍾乳石群 (C) Explorer1940
世界遺産「シュコツィアン洞窟群」の石灰華段丘
世界遺産「シュコツィアン洞窟群」の石灰華段丘 (C) xiquinhosilva

■世界遺産概要

スロベニア南西部、イタリアのトリエステに近いクラス地方に位置する洞窟群で、深い渓谷の地下に地下峡谷や地下河川・滝を含む全長6.2km・最大深度223mを誇る洞窟網が張り巡らされている。石灰岩などが溶食されてできるカルスト地形の典型で、クラス地方の "kras" から「カルスト」という名称が生み出された。

○資産の歴史と内容

中生代(2億5,000万〜6,600万年前)の初期から新生代(6,600万年前~現在)のはじめにかけて、現在のヨーロッパから東南アジアに至る広大な地域にテチス海と呼ばれる海が広がっていた。この海はユーラシア・プレートがアフリカ・プレートに衝突して沈み込むアルプス造山運動と、インド=オーストラリア・プレートがユーラシア・プレートに衝突したヒマラヤ造山運動で大地が移動したり隆起したりすることで消滅した。クラス地方では中生代白亜紀(1億5,000万~6,600万年前)から新生代古第三紀(6,600万~2,300万年前)にかけて生物の死骸が堆積して水が浸透しやすく水に溶けやすい石灰岩やドロマイト(苦灰岩)といった堆積岩層を形成し、この層が隆起することで厚さ300mといわれるカルスト台地を生み出した。シュコツィアン洞窟系(洞窟系は複数の洞窟が接続した洞窟システムを示す)はこのカルスト台地をレカ川が侵食することで誕生した。

レカ川は新生代第四紀更新世(約258万~1万年前)以前はクラス地方においても一般的な川と同様に地表を流れていたと考えられており、全長4kmにわたって延びるスロベニア最大の渓谷であるレカ川盲谷(盲谷は出口のない谷)を造り出した。しかし、地下に染み込む水や、鍾乳洞や地下水によってできた空間が拡大して地表が陥没するドリーネなどによって次第に流れが変わり、やがて地下を流れる地下河川となった。地下でも侵食は続き、巨大な洞窟や地下峡谷・滝といった大規模な構造が形成された。全長約55kmのレカ川はマホルチチェヴァ洞窟で地下に入り、 深さ90mのオクログリツァ竪穴を経てマリニチェヴァ洞窟に移り、深さ120mのマラ・ドリーネでいったん地表に出た後、深さ165mのヴェリカ・ドリーネでふたたび地下に入ってシュコツィアン洞窟系を通り抜けている。そして約35km先のイタリア領で地表に出ると、ティマヴァ川として約2kmを流れてアドリア海に注いでいる。なお、陥没孔を意味する「ドリーネ」という言葉はマラ・ドリーネやヴェリカ・ドリーネの地名に由来する。

35kmの地下河川の大半は狭く流れも速いため調査できない人跡未踏の地となっており、枝洞を含めた全長6.2kmがシュコツィアン洞窟系の領域とされる。内部には11の洞窟構造、5つの空洞、25の滝が存在し、地下峡谷が約2.6kmにわたって延びている。流れはきわめて速く、最大で高さ30mの滝が降り注いでいる。最大の空洞であるマルテロヴァの間は全長308m・最大幅123mで、河床からの高さは最大146mを誇る。数多くの鍾乳石が洞窟を彩っており、つららのように垂れ下がる鍾乳石、下から盛り上がる石筍(せきじゅん)、両者がつながった石柱、細いつらら状のストロー、幕状のカーテン、プールのような棚が並ぶ石灰華段丘など多彩な造形が楽しめる。

シュコツィアン洞窟系の他に、周辺にはマホルチチェヴァ洞窟、マリニチェヴァ洞窟、プレヴァリ1洞窟、プレヴァリ2洞窟、スクリツァ洞窟、リピエ洞窟といった洞窟群が存在する。

シュコツィアン洞窟群は豊かな生態系でも知られ、地中海とアルプス両者の植物相を備えており、絶滅危惧種を含む多様な動植物種が活動している。世界遺産において生物に関する登録基準は満たしていないものの、1999年にラムサール条約(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)登録湿地となり、2004年には生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)に指定されている。

また、洞窟群では1万年以上前から人間の居住の跡があり、青銅器時代や鉄器時代の遺物も発見されている。一説では冥界に続く聖域とされ、死者を埋葬する死者の町ネクロポリスとして整備され、巡礼や儀式が行われていたという。

■構成資産

○シュコツィアン洞窟群

■顕著な普遍的価値

○登録基準(vii)=類まれな自然美

シュコツィアン洞窟群はきわめて保存状態のよい卓越したカルスト地形であり、壮大なスケールと際立った美的クオリティ、他に類を見ないカルストの機能を広範囲で保持している。ハイライトのひとつが地下峡谷で、最大で高さ150m弱にもなる峡谷が2km以上にわたって延びており、いくつもの滝を含む急流が峡谷を貫いている。内部には数多くの鍾乳石や石筍・石柱が見られ、ヴェリカの間の巨人と呼ばれる鍾乳石や、ドゥヴォラナの間の石灰華段丘をはじめ自然が作り上げた美しい作品で満ちている。1888年に正式に発見されたこの石灰華段丘はシュコツィアン洞窟群の象徴となっている。

また、レカ川はマラ・ドリーネとヴェリカ・ドリーネというふたつの美しい陥没孔の間で地表を走るが、ドリーネと渓谷の美しさは1689年にこの地を訪れた探検家ヴァルヴァソルの絵に描かれており、以来数多くの芸術家や科学者・観光客を魅了しつづけている。

○登録基準(viii)=地球史的に重要な地質や地形

シュコツィアン洞窟群はカルスト地形を代表する地域であり、「カルスト」や「ドリーネ」といった地学の用語を生み出すきっかけとなった場所である。このことはこの地が科学、特に地球科学の歴史にとって重要であることを強く示している。過去から現在に至る地質学的・地形学的・氷河学的・水文学的なプロセスの結果である見事なカルストが比較的小さなエリアに集中しており、科学者はもちろん観光客を魅了している。シュコツィアン洞窟系の本洞は白亜紀の石灰岩の厚い層をレカ川が侵食することで形成されており、こうしたダイナミックな侵食は他にもレカ川盲谷、ドリーネ群、種々の洞窟と峡谷、洞窟開口部などで教科書的なすぐれた例を見ることができる。そしてまた、こうした地質学的多様性は水と大地のシステムの多様性を意味しており、生物の多様性をもたらしている。

■完全性

他の世界的に重要な保護区と比較してシュコツィアン洞窟地域公園は規模も小さく、特に厳しい保護体制を敷いているわけでもない。この地域公園は古代から人間が絶え間なく生活を続けてきた景観の中に位置し、自然保護と人間の存在が必ずしも相互に排他的ではないことを示す有望な例となっている。

地域公園と世界遺産はいずれもカルスト地形のもっとも重要な特徴を含んでいるため、自然遺産の価値の保護に強く貢献している。これまでに景観や洞窟の一部は開発の対象となり、たとえば洞窟にアクセスするための歩道や橋・電灯といったインフラのための工事が行われてきた。しかし、こうした開発には制限があり、自然や景観を壊さないよう慎重に設計され、素材を吟味して行われており、完全性の毀損を防いでいる。

資産はカルスト生物圏保存地域に囲まれており、シュコツィアン洞窟地域公園が中心をなしている。カルスト生物圏保存地域のバッファー・ゾーンは視覚的・地質学的・生態学的に資産より大きな範囲を保護しており、資産の完全性を担保している。

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