レーティシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観

Rhaetian Railway in the Albula / Bernina Landscapes

  • イタリア/スイス
  • 登録年:2008年
  • 登録基準:文化遺産(ii)(iv)
  • 資産面積:152.42ha
  • バッファー・ゾーン:109,385.9ha
世界遺産「レーティシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観」、アルブラ線のラントヴァッサー橋
世界遺産「レーティシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観」、アルブラ線のラントヴァッサー橋 (C) Geri340
世界遺産「レーティシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観」、ベルニナ線とビアンコ湖
世界遺産「レーティシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観」、ベルニナ線とビアンコ湖
世界遺産「レーティシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観」、ベルニナ線のブルージオ橋
世界遺産「レーティシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観」、ベルニナ線のブルージオ橋 (C) Kabelleger / David Gubler http://www.bahnbilder.ch

■世界遺産概要

イタリア、スイスにまたがるレーティシュ鉄道はトゥージス~サンモリッツを結ぶ北のアルブラ線と、サンモリッツ~ティラーノを結ぶ南のベルニナ線の2路線からなる。中央アルプスの町々の孤立を解消し観光を振興するために20世紀はじめに開通した鉄道で、アルプスの雄大な自然と調和したすばらしい景観を奏でている。

○資産の歴史と内容

トゥージス~サンモリッツ~ティラーノはもともとアルプスを縦断するルートとして開拓されておらず、道路が通ったのは19世紀で、ベルニナ道が1842年、アルブラ道が1866年だ。1857年にサンモリッツに最初のホテルが開業するとアルプスの手付かずの自然が注目を集め、イタリアやスイスのみならずイギリスなど国内外の裕福な貴族たちが集まる避暑地となった。ベルニナ道とアルブラ道の要衝に町が発達すると、これらを接続する鉄道が待望された。

鉄道の建設はレーティシュ鉄道によって1898年にはじまり、1904年にスイスのクールとサンモリッツを結ぶアルブラ線が開通した。全長は支線を含めて89kmだが、世界遺産に登録されているのはトゥージス以南の67kmで、最高高度は標高1,819mとなっている。当初は蒸気機関車で牽引していたため最急勾配35パーミル(35/1000)・最小曲線半径120mと平坦で、山を貫く42のトンネルと渓谷に架かる144の橋によってこれを実現した。

アルブラ線随一の名所がラントヴァッサー橋だ。ラントヴァッサー峡谷はアルブナ線の最難所とされたが、ドイツ人技師フリードリヒ・フォン・ヘニングは全長136m・高さ65mを誇る高架橋によってこれをクリアした。高さにおいてはソリス橋が最高で、全長164m・高さ86mを誇る。アルブナ線は1910~20年代にすべて電化されている。

サンモリッツとイタリア北部のティラーノを結ぶ全長61kmのベルニナ線は1910年に開通した。山岳道路に沿って建設できるように最初から電気牽引で設計され、そのため最急勾配70パーミル・最小曲線半径40mとアルブラ線の倍ほども急になっている。その代わりトンネルや橋といった構築物は少なく、13のトンネルと52の橋が建設された。歯型のレール(ラック・レール)を採用していない一般的な鉄道としてはヨーロッパ最高高度を誇り、オスピッツオ・ベルニナ駅近郊のベルニナ峠で標高は2,253mに達する。周辺にはモルテラッチ氷河やカンブレナ氷河といった氷河が横たわり、ビアンコ湖などの美しい氷河湖が点在している。

ベルニナ線の名所のひとつが全長110m・半径50~70mを誇るブルージオのループ橋で、こうしたオープンループによって勾配を70パーミル以内に抑えた。もともとベルニナ線は別の会社に運営されていたが、第2次世界大戦時の経営不振により1944年にレーティシュ鉄道の傘下に入った。

レーティシュ鉄道は中央アルプスの厳しい山岳環境に鉄道を通したが、これは切石を積み上げて線路や高架橋・雪崩防止壁を築くなど西洋石造建築の集大成となった。これを期にあらゆる自然への鉄道の敷設が可能となり、地方の開発や観光の振興を導き、自然と人間の関係性を変える転機となった。

■構成資産

○レーティシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観

■顕著な普遍的価値

○登録基準(ii)=重要な文化交流の跡

レーティシュ鉄道のアルブラ線とベルニナ線は技術的・建築的・環境的に卓越したアンサンブルを構成している。現在、このふたつの路線は単一のアルプスラインに統合されており、建築・土木技術や景観との美的調和といった点で革新的ソリューションを提示し、山岳鉄道技術の開発において人間と文化の価値の交流を示している。

○登録基準(iv)=人類史的に重要な建造物や景観

レーティシュ鉄道のアルブラ線とベルニナ線は20世紀最初の10年間における山岳鉄道のきわめて重要な発展を示し、山地における人間活動の長期的な発展を示すすばらしい産業遺産である。そしてまた鉄道に関連して人間と自然が共に築き上げた多様な文化的景観を提供している。

■完全性

アルブラ線とベルニナ線の全線が資産となっているわけではないが、資産のサイズは十分で、鉄道インフラのみならず周辺の景観もよく保存されている。鉄道インフラは疑いなく本物で高い完全性を維持しており、すぐれた運用法とメンテナンスにより長期にわたって高いクオリティを保っている。これらを管理するレーティシュ鉄道は現在も使用されている資産について真正性のコンセプトと適合する技術的な変更や改革を実施している。

広大なバッファー・ゾーンも設定されていて法的保護も適切である。資産の管理システムは十分なものであるが、一般へのプレゼンテーションを強化することが望ましい。

■真正性

トンネルや橋といった構築物のほとんどはよく保存されており、鉄筋コンクリート造となった一部の橋を除いて真正性は高いレベルで維持されている。レーティシュ鉄道の管理体制も十分で、メンテナンスも適切に行われていて長期的な保全が期待できる。また、線路の拡張などでコンクリートが使用されることもあるが、使用は最小限に抑えられており、デザイン的にも配慮されている。ただ、駅については現代的に拡張される例も少なくない。

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