パドヴァの植物園[オルト・ボタニコ]

Botanical Garden (Orto Botanico), Padua

  • イタリア
  • 登録年:1997年
  • 登録基準:文化遺産(ii)(iii)
  • 資産面積:2.2ha
  • バッファー・ゾーン:11.4ha
世界遺産「パドヴァの植物園[オルト・ボタニコ]」、ホルトゥス・シントゥス、博物館(植物標本室)
世界遺産「パドヴァの植物園[オルト・ボタニコ]」のホルトゥス・シントゥス中央部、正面は博物館(植物標本室)

■世界遺産概要

イタリア北東部のヴェネト州パドヴァに位置するパドヴァ大学の付属植物園で、移転せずに伝わる世界最古の大学植物園とされる。ヨーロッパの植物園の原型といえるもので、植物学誕生の記念碑的な遺産である。

○資産の歴史と内容

パドヴァ大学は名門ボローニャ大学の教授や学生らが1222年に設立した大学で、イタリア第2位の歴史を誇る。1543年に医学と薬理学の研究のために植物学者フランチェスコ・ボナフェデが植物園と植物標本室を構想し、建築家ダニエル・バルバロの設計で1545年に建設された。世界最古の大学植物園はピサ大学付属植物園で1544年に創設されているが、2回移転していて現存の植物園は1591年のものだ。

バルバロが設計したメインとなる庭園は「ホルトゥス・シントゥス」と呼ばれる円形の幾何学式庭園だ。海を表す二重の円環で直径86mの円形の庭園を築き、内部を2本の直線で4つの扇に分割し、それぞれの扇部分に正方形の花壇を設置した。全体は線対称・点対称だが、4つの正方形花壇はそれぞれ異なる幾何学図形を描いている。この庭園には薬草などが植えられたが、高価な植物が多かったため盗難が後を絶たず、1552年に円形のレンガ壁で囲まれた。

17世紀にホルトゥス・シントゥスの内外に10もの噴水が設置され、18世紀はじめにはレンガ壁の4つのエントランスが改修されて重厚な柱と錬鉄製の門が加えられ、門の上は石造の欄干、門の外はソロモンやテオフラストスなどの石像で飾られた。18世紀後半から19世紀にかけて温室や揚水設備、樹木園、自然のままの景色を楽しむイギリス式庭園、見晴らしのよい丘(ベルヴェデーレ)などが改修・増築されている。

庭園には6,000以上の植物が栽培されているが特に薬用植物で名高く、他にも食虫植物や有毒植物、水槽で栽培されている水生植物、温室の多肉植物などで知られている。もっとも古い植物は1585年に植えられたヤシの木で、作家ゲーテが称賛したことから「ゲーテのヤシ」と呼ばれている。

図書館には1,500点を超える植物の絵や写真のコレクションがあり、5万冊以上の文献や原稿が収められている。博物館として公開されている標本室の乾燥標本はイタリアやダルマチア地方の植物を中心に40万点以上に及び、イタリア第2位の規模を誇る。

■構成資産

○パドヴァの植物園[オルト・ボタニコ]

■顕著な普遍的価値

○登録基準(ii)=重要な文化交流の跡

パドヴァの植物園はイタリアはもちろんヨーロッパ周辺の多くの庭園の原型であり、建築的・機能的にすぐれたデザインであるという側面と、薬用植物と関連分野の研究のための施設であるという教育的・科学的な側面の両面において多大な影響を与えてきた。設立以来、国際的なネットワークの中心でありつづけ、薬用植物および植物科学のさまざまな側面の普及と植物種の保存に貢献し、また数多くの科学分野、特に植物学・医学・生態学・薬学の発展に寄与した。

○登録基準(iii)=文化・文明の稀有な証拠

5世紀以上にわたってパドヴァの植物園は科学的・文化的重要性を保ちつづけており、その証拠を提示している。位置・サイズといった建築的・機能的特徴と、研究的および教育的特徴は、植物科学および教育科学の最先端の発見への絶え間ない適応により何世紀にもわたって本質的に変化していない。

また、多数の著名な植物学者が植物園の長の座である "Praefectus"(プラエフェクトゥス)に就いており、彼らの名前は "Praefectus Giulio Pontedera"(プラエフェクトゥス・ジュリオ・ポンテデーラ)のように多くの植物名に刻まれ、植物学研究の象徴となっている。

■完全性

資産は顕著な普遍的価値を表現するために必要なすべての要素を含んでおり、完全性は維持されている。長い歴史を持つこの植物園は継続的に使用されており、本来の構造・環境・レイアウトおよび機能を保持し、5世紀以上にわたって研究・教育および科学の普及に貢献している。

■真正性

パドヴァの植物園は16世紀に建造されて以来、当初の目的のために継続的に使用されてきた。水のリングで囲まれたその中央に世界を象徴する円形の区画を持つレイアウトはそのまま維持されている。装飾されたエントランスや欄干をはじめとする建築上の特徴や、ポンプ設備や温室といった実用的な施設・設備は後世の追加だが、真正性は損なわれていない。19~20世紀にかけての修復作業もオリジナルの特徴と素材を十分尊重して行われた。植物学や園芸学の理論と実践の発展に伴って加えられた変更もあるが、全体的には元の設計や構造を明確に保持している。

■関連サイト

■関連記事