コネリアーノとヴァルドッビアーデネのプロセッコの丘

Le Colline del Prosecco di Conegliano e Valdobbiadene

  • イタリア
  • 登録年:2019年
  • 登録基準:文化遺産(v)
  • 資産面積:20,334.2ha
  • バッファー・ゾーン:43,988.2ha
コネリアーノとヴァルドッビアーデネのプロセッコの丘」、ヴァルドッビアーデネのブドウ畑
コネリアーノとヴァルドッビアーデネのプロセッコの丘」、ヴァルドッビアーデネのブドウ畑 (C) Alberto Davide Lorenzi

■世界遺産概要

イタリア北東部ヴェネト州のコネリアーノとヴァルドッビアーデネはヴェネツィア(世界遺産)の北55kmほどに位置するコムーネ(自治体)で、その丘はイタリアの原産地名称保護制度で最上級を示すD.O.C.G.のスパークリング・ワイン「プロセッコ・ディ・コネリアーノ・ヴァルドッビアーデネ」の産地として知られる。プロセッコに関係するブドウ畑や農業関連施設・集落・歴史的建造物といった産業遺産と周辺の文化的景観が評価された。なお、世界遺産の資産はおおよそヴァルドッビアーデネからヴィットリオ・ヴェネトの間のエリアで、コムーネとしてはヴァルドッビアーデネ、ヴィドル、ミアーネ、ファッラ・ディ・ソリーゴ、ピエーヴェ・ディ・ソリーゴ、フォッリーナ、チゾーン・ディ・ヴァルマリーノ、レフロントロ、サン・ピエトロ・ディ・フェレット、タルツォ、ヴィットリオ・ヴェネトが含まれている。ただし、各コムーネの全域が登録されているわけではなく、たとえばヴァルドッビアーデネやヴィットリオ・ヴェネトの市街地は除外されている。また、世界遺産名にあるコネリアーノはコムーネとしては含まれていない。

○資産の歴史と内容

ヴェネト州におけるブドウ栽培はローマ時代の紀元前181年までさかのぼり、教会や修道院の活躍もあってヴェネト地方の名産品として普及した。中世、トリエステ近郊にプロセッコという町があったことから白ワイン・プロセッコが広まったとも伝えられる。18世紀に白ワインの優秀な品種であるグレーラ種の栽培がはじまった。

コネリアーノとヴァルドッビアーデネはポー平原の北東、アルプス山脈の麓に位置しており、軟らかい土壌が侵食されて硬い岩盤が剥き出しになった「ホッグバック」と呼ばれる長い尾根が伸びている。ホッグバックには「チリオーニ」と呼ばれる草が茂った狭いテラスが連なっており、17世紀にこの土地でブドウの栽培がはじまった。勾配は急で土壌も少ないが、グレーラ種の栽培には最適で、きわめて高品質のブドウが収穫された。ただ、ブドウ畑の管理は難しく、機械が入れられない急勾配であるため手作業で土を持ち上げて整備し、土壌の養分や侵食の点から樹木と畑のエリアを組み合わせる必要があり、また水分調節を巧みに行わなければならなかった。また、斜面で太陽光を効率よく吸収させるため、枝を四方に水平に這わせる「ベルッセラ "bellussera"」と呼ばれる技法が用いられた。このため木々が並ぶ畑には「スカッキエーラ "scacchiera"(チェス盤)」と呼ばれる菱形が連なる幾何学的な文様が浮かび上がっている。

19~20世紀はじめに発泡させたスパークリング・ワインが普及するが、瓶内で二次発酵させるフランスのシャンパンと異なり(シャンパーニュ式)、プロセッコでは大樽やタンク内で二次発酵が行われた(マルティノッティ式)。こうしたユニークな品種や製法のため、プロセッコは11%程度の低いアルコール度数にドライな味わいとフレッシュでフルーティーな香りを持つ独創的なスパーリング・ワインとして高く評価された。

こうした努力が奏功してプロセッコ・ディ・コネリアーノ・ヴァルドッビアーデネは2010年8月にD.O.C.G.認定を獲得。一方でヴェネト州とフリウリ州で生産されるプロセッコD.O.C.(D.O.C.はD.O.C.G.に次ぐ評価を示す)は21世紀に入って急速に生産を拡大させ、生産量は年3億本以上に及んだ。プロセッコはこうしてピエモンテ州のアスティと並び、世界的な名声を勝ち取ることに成功した。なお、アスティの生産地は「ピエモンテのブドウ畑の景観:ランゲ=ロエロ、モンフェッラート」として世界遺産リストに登録されている。

■構成資産

○コネリアーノとヴァルドッビアーデネのプロセッコの丘

■顕著な普遍的価値

○登録基準(v)=伝統集落や環境利用の顕著な例

コネリアーノとヴァルドッビアーデネのプロセッコの丘は数世紀にわたる人と自然の共同作業によって生まれたブドウ栽培に関する文化的景観である。ホッグバックの厳しい地形の適応と開発には特殊な土地使用の実践が必要とされ、急斜面における手作業によるブドウ畑の管理や、土地の輪郭を形成し土壌や畑を安定させるチリオーニと呼ばれる草で覆われたテラス群の開拓、一帯で開発されたベルッセラ法の採用などが行われた。その結果、「スカッキエーラ」と呼ばれるの特徴的な外観が形成された。多くの変更にもかかわらず、この地域での農業の歴史はそういった景観パターンに反映されている。

■完全性

資産は適切なサイズであり、明確で無傷な地形内に顕著な普遍的価値を構成する特徴を含んでいる。害虫・戦争・貧困・工業化によってもたらされた多くの変化と困難にもかかわらず、ブドウ畑やチリオーニ、建造物といった多くの特徴は良好な保全状態を示しており、森林とのパッチ構造は維持されている。また、手作業による収穫を含め、景観の完全性の維持を可能にする農業・ブドウ栽培の技術は継承されている。こうした環境的なプロセスは景観とブドウ畑の持続可能性にとってきわめて重要である。

現在、脅威は管理されているが一部、特にバッファー・ゾーンの建築や都市開発に対しては保全状態の改善が必要である。近年の気候変動により地滑りの発生が目立っており、また世界市場の成長に伴ってプロセッコは生産圧力を受けており、景観の不可逆的な変化が懸念される。

■真正性

資産の主な特徴はブドウ栽培と土地利用のために人と自然が形作り、また形作られた独特の景観と関連している。多くの変化にもかかわらずその特徴は真正性を維持しており、土地台帳や目録、歴史的・宗教的絵画、チリオーニの導入や18世紀の最初の土地登録から共有作付システムの運用を記した歴史文書などにより証明されている。

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