ブルー・ナ・ボーニャ-ボイン渓谷の考古遺跡群

Brú na Bóinne - Archaeological Ensemble of the Bend of the Boyne

  • アイルランド
  • 登録年:1993年
  • 登録基準:(i)(iii)(iv)
  • 資産面積:770ha
  • バッファー・ゾーン:2,560ha
世界遺産「ブルー・ナ・ボーニャ-ボイン渓谷の考古遺跡群」、ニューグレンジ
世界遺産「ブルー・ナ・ボーニャ-ボイン渓谷の考古遺跡群」、ニューグレンジ。南東側(写真右側)は石垣で覆われている
世界遺産「ブルー・ナ・ボーニャ-ボイン渓谷の考古遺跡群」、ノウスの羨道墳群
こちらは世界遺産「ブルー・ナ・ボーニャ-ボイン渓谷の考古遺跡群」、ノウスの羨道墳群 (C) Thorsten Kirchoff

■世界遺産概要

ボイン川北岸に広がるボイン渓谷では紀元前4000年ほどより定住がはじまり、住居跡や羨道墳(せんどうふん。玄室への道=羨道のある石室墓)、ヘンジ(環状に並べられた複合的な工作物)、エンクロージャー(石をドーナツ状に積み上げた工作物)といったメガリス(巨石記念物)が集中しており、ヨーロッパで最大かつ最重要な先史時代の遺跡地帯となっている。

○資産の歴史と内容

特筆すべきは約40の羨道墳に囲まれたニューグレンジ、ノウス、ドウスという巨大な羨道墳で、紀元前3000年前後の建造と見られている。ボイン渓谷のランドマークであるニューグレンジは直径76m・高さ12mほどの円に近いハート型の羨道墳で、南東側の半分ほどに白い珪岩や花崗岩で壁が築かれている。南東に口を開けた羨道は全長約18mで、43基の巨石で通路が形成されている。中央には十字架形の玄室があり、壁の両側から徐々に石を張り出させて天井を築くコーベル・アーチ(持送りアーチ。疑似アーチ)で空間を確保している。年に一度、冬至の朝に羨道上部のルーフボックスと呼ばれる採光口から太陽光が差し込む仕掛けで、入った光は玄室まで到達する。ポータル(玄関)前には巨大なメガリスが寝かされており、3つの渦巻きを組み合わせたトリスケリオン(三脚巴)が刻まれている。これ以外にも巨石の所々に直線や山形・菱形・円・蛇行・渦巻き・螺旋といった文様が描かれている。周囲は12基のメンヒル(立石)が円を描いているが、これらは約千年後の青銅器時代に追加されたもので、もともと35個のメンヒルがストーン・サークルを描いていたようだ。周辺には多数の環状木柱列が見られるが、これらも後年の建設で、なんらかの儀式に使用されていたと見られる。

ドウスは直径85m・高さ15mほどの羨道墳でニューグレンジの北東約2kmに位置している。西側にふたつの羨道が口を開けており、ドウス・ノース、ドウス・サウスのふたつの玄室に通じている。約18mの羨道の先にあるのがドウス・ノースで、十字形の玄室の壁にはさまざまな文様が描かれている。天井は壁の間に長い石を渡したリンテル(まぐさ石)で、ニューグレンジのようなコーベル・アーチは見られない。ドウス・サウスはそれよりも小さいが、石はやはり文様で飾られている。11~2月の夕方、ドウス・サウスの羨道に太陽光が入り込み、冬至の日の夕方には中央の石を照らす構造になっている。

ニューグレンジの北西1kmほどに位置するノウスは直径67m・高さ12mの羨道墳と17のマウンドからなり、127の縁石で囲まれている(現存するのは124)。東西に羨道が走っており、東の羨道は十字形の玄室に通じ、途中の3つの窪みに置かれた石鉢には火葬された遺骨が収められていた。西の羨道は四角形の玄室に通じている。ノウスで特徴的なのは石の裏側に描かれたレリーフで、200以上の石に渦巻きや蛇紋・菱形といった文様が刻まれている。周辺に多くの環状木柱列が見られるのはニューグレンジと同様だ。

これらの羨道墳の目的は明確にはわかっておらず、ニューグレンジやノウスでは火葬された人骨が発見されていることから石室墓とされるが、天体の運行に関係していることから宗教施設や天体観測施設、あるいはそれらの複合施設とも考えられている。建造した民族も不明だが、後にこの地に入ったケルト人の神話によると、ニューグレンジはダグザ神が造ったもので、女神トゥアサ・デ・ダナンの家としている。ケルト人も周囲に墓を建設しており、中世まで長きにわたって聖地として祀られていた。

■構成資産

○ブルー・ナ・ボーニャ-ボイン渓谷の考古遺跡群

■顕著な普遍的価値

○登録基準(i)=人類の創造的傑作

ヨーロッパ新石器時代の巨石文明の中でも最大かつ最重要な先史時代の遺跡群であり芸術表現である。

○登録基準(iii)=文化・文明の稀有な証拠

社会的・経済的・葬祭のモニュメントが集中し、先史時代から中世後期に至る長い継続性により、ヨーロッパでもっとも重要な考古学的遺跡のひとつとなっている。

○登録基準(iv)=人類史的に重要な建造物や景観

この地で最高の表現手段である羨道墳の数々はヨーロッパの先史時代やその後の歴史に引き継がれた石室墓の特徴を代表している。

■完全性

ブルー・ナ・ボーニャの資産には顕著な普遍的価値を示すすべての要素が含まれている。ニューグレンジ、ノウス、ドウスの羨道墳に加えて90の記録されたモニュメントがあり、さらに未知の遺跡が多数眠っている。法的に保護されており、2,560haに及ぶバッファー・ゾーンも設定されていて景観も保護されている。懸念材料としてはボイン川を横断する橋や煙突や焼却炉など設備、住宅開発があり、景観はこうした開発に対して脆弱である。

■真正性

遺跡は地上部・地下部ともに本物で、疑いはない。主要な発掘はニューグレンジとノウスで行われ、その後も発掘調査が続けられている。こうした発掘に伴ってニューグレンジとノウスの羨道墳では熟練した専門スタッフによってさまざまな保全作業が行われている。安定や安全を確保するためセメントやプラスチックといった近代的な素材が使用されることもあるが、使用は最小限で元の素材と明確に区別されており、景観に影響を与えぬよう隠されるなど適切に管理されている。こうした修復作業は考古学者と保全を専門とする建築家の緊密な協力の結果であり、国際的な基準に合致している。

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