テイデ国立公園

Teide National Park

  • スペイン
  • 登録年:2007年
  • 登録基準:自然遺産(vii)(viii)
  • 資産面積:18,990ha
  • バッファー・ゾーン:54,127.9ha
  • IUCN保護地域:II=国立公園
世界遺産「テイデ国立公園」、ラス・カニャダスの荒涼たる景観
世界遺産「テイデ国立公園」、ラス・カニャダスの荒涼たる景観。左が外輪山でグルリとカルデラを囲んでいる。中央右がガルシア岩群、右奥がテイデ峰で左にビエホ峰も見える
世界遺産「テイデ国立公園」、北から眺めたテイデ山。北斜面には低木帯が広がっている
世界遺産「テイデ国立公園」、北から眺めたテイデ山。北斜面には低木帯が広がっている
世界遺産「テイデ国立公園」、高さ27mのシンチャド岩とテイデ山
世界遺産「テイデ国立公園」、高さ27mのシンチャド岩とテイデ山
世界遺産「テイデ国立公園」、赤い花はカナリア諸島の固有種エキウム・ウィルドプレッティ
世界遺産「テイデ国立公園」、赤い花はカナリア諸島の固有種エキウム・ウィルドプレッティ (C) Mataparda

■世界遺産概要

テイデ国立公園は北アフリカ沿岸部の大西洋上に浮かぶカナリア諸島テネリフェ島中央部にそびえるテイデ山を中心とした国立公園。島であるにもかかわらずテイデ山は標高3,718mでスペイン最高峰を誇り、海底から測ると高さ7,500mと世界第3位の火山体となる。月や火星を思わせる荒涼とした景観が特徴で、実際に火星探査のための研究や実験も行われている。

○資産の歴史と内容

カナリア諸島は約3,000万年前にはじまる火山活動によって生まれた海洋島(大陸と陸続きになったことのない島)群で、テイデ山は1,000万年ほど前に海底火山として活動がはじまった。約300万年前にテネリフェ島が隆起し、標高4,500mほどまで発達したが、山頂は100万年前にはじまる火山活動によって崩壊したと考えられている。15万年ほど前の噴火によって山頂付近が吹き飛ばされてラス・カニャダスと呼ばれるカルデラ(火山活動で生まれた凹地)が形成された。ラス・カニャダスは標高3,718mのテイデ峰と、西2kmほどに口を開けた標高3,135mのビエホ峰を囲んでおり、山頂にふたつの峰を持つことからこの火山はテイデ=ピコ・ビエホ成層火山(成層火山はひとつの火口から噴火する円錐形の火山)と呼ばれている。この成層火山は海底から測ると高さ7,500mに達し、火山体としては10,000mを超えるハワイ島のマウナケア、9,000mを超える同島のマウナロアに次ぐ規模を誇る。近年噴火しているのは周辺の火口で、最後に噴火した18世紀、1705年の噴火はファスニア火口、近年最後の噴火である1798年の噴火はナリセス・デル・テイデ火口から噴火している。火山が急速に駆け上がっていることから海に差す日陰の面積は世界最大ともいわれ、日の出では西のゴメラ島、日の入りでは東のグラン・カナリア島の一部を覆う。こうした影の現象や雲海の上に顔を出すアリセと呼ばれるテイデ山の姿はダイナミックで、大航海時代にはコロンブスをはじめ数多くの航海士が目印とし、現在でもテイデ観光のひとつのハイライトとなっている。

テイデ国立公園はテイデ山を中心とした国立公園で、標高1,650~3,718mをカバーし、周辺をコロナ森林自然公園が取り囲んでいる。山頂付近はラス・カニャダスが口を開けており、最大高低差650mにもなる切り立った外輪山が全長約25kmにわたってテイデ峰やビエホ峰を取り囲んでいる。峰々の北から東にかけて外輪山が存在しないが、こちら側では大規模な崩壊があったためと考えられている。そのため北側は比較的なだらかな斜面が広がっている。地質はマグマが冷えて固まった火成岩で玄武岩が多く、表面は軽石のような堆積物で覆われている。山の爆発で形成された奇岩群があちらこちらに見られ、風雨による激しい侵食を受けている。こうした地質や環境は火星と似ているとされ、2010年以降、ヨーロッパの火星探査計画エクソマーズの研究チームが研究や機器のテストに訪れている。

劇的な景観であることから先住民族グアンチェ族の間では悪魔グアヨタが封じられた聖山とされ、地震や火山といった活動は山中にいるグアヨタによって引き起こされると考えられていた。伝説によると、グアヨタはテイデ山に太陽神マジェクを封じ込めたが、グアンチェ族の先祖の願いを聞き入れた最高神アチャマンによって打ち破られ、マジェクに代わってグアヨタが封じられ、テイデ峰の山で蓋をされたという。

生態系について、海から急速に切り立った地形であるため際立った植物の垂直分布が見られる。ただ、ミネラル分が多い半面、養分は非常に少なく、薄い土のために深い森は形成されていない。それでも山の中腹である標高1,000~2,100mほどにはカナリアネズやカナリアマツといった針葉樹林が見られるが、同緯度の他の地域より低い標高で森林限界(高木限界)に達し、低木帯や草原・荒原といった高山帯に移行する。国立公園はおおむね高山帯をカバーしている。この高山帯は固有種の比率が非常に高く、確認されている220種の維管束植物(維管束を持つシダ植物や種子植物)のうち73種はカナリア諸島、33種はテネリフェ島、16種はテイデ国立公園の固有種となっている。カナリア諸島の固有種エキウム・ウィルドプレッティはテイデ山を象徴する花として知られる。固有種の多さは動物も同様で、無脊椎動物の40%が固有種で、70種については園内でしか見られない。爬虫類についてはカナリアカナヘビ、テネリフェゲッコー、西カナリアトカゲが固有種だ。

■構成資産

○テイデ国立公園

■顕著な普遍的価値

○登録基準(vii)=類まれな自然美

テイデ山は世界第3位の高さを誇る火山構造であり、奇岩群が立ち並ぶラス・カニャダスの断崖と峰々は卓越した山岳風景を奏でている。この景観が誇る地理的多様性は複合火山の発展に関するさまざまな段階を物語るすばらしい地形群を含んでいる。景観は大気の条件によってその形とトーンを千変万化させ、雲海によってさらに印象的に彩られる。

○登録基準(viii)=地球史的に重要な地質や地形

テイデ国立公園は地質学的に古くて遅く、複雑かつ成熟した稀有な火山である。海洋島の進化を示す地質学的プロセスの多様な証拠を提供する世界的に重要な火山であり、ハワイ火山国立公園をはじめ世界遺産リストに掲載されている既存の火山の研究を補完するものである。火山の特徴と景観の多様性は比較的限られたエリアに集中しており、アクセスも難しくない。こうしたエリアは地質学や地形学では国際的に知られており、地理学者アレクサンダー・フォン・フンボルト、地質学者レオポルト・フォン・ブーフ、同チャールズ・ライエルらが活発に活動を行い、地質学や火山学の歴史においてきわめて重要な役割を果たした。

■完全性

資産はテイデ国立公園のエリアと同一であり、国立公園として高いレベルで法的保護が行われている。状態もよく、6年間の管理計画もよく整っている。周辺にはバッファー・ゾーンが設定されており、こちらも自然公園として法的保護下にある。急増する観光客の管理や気候変動の潜在的な影響、政府と自治体の管理責任の調整などが課題だが、大きな問題となってはいない。

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