アルタミラ洞窟と北スペインの旧石器時代の洞窟画

Cave of Altamira and Paleolithic Cave Art of Northern Spain

  • スペイン
  • 登録年:1985年、2008年重大な変更
  • 登録基準:文化遺産(i)(iii)
  • 資産面積:2,234.706ha
世界遺産「アルタミラ洞窟と北スペインの旧石器時代の洞窟画」、アルタミラ洞窟のバイソンの群れ(復元)
世界遺産「アルタミラ洞窟と北スペインの旧石器時代の洞窟画」、アルタミラ洞窟のバイソンの群れ(復元) (C) Museo de Altamira y D. Rodríguez
世界遺産「アルタミラ洞窟と北スペインの旧石器時代の洞窟画」、アルタミラ洞窟のバイソン(復元)
世界遺産「アルタミラ洞窟と北スペインの旧石器時代の洞窟画」、アルタミラ洞窟のバイソン(復元)
世界遺産「アルタミラ洞窟と北スペインの旧石器時代の洞窟画」、エカイン洞窟のウマの群れ(復元)
世界遺産「アルタミラ洞窟と北スペインの旧石器時代の洞窟画」、エカイン洞窟のウマの群れ(復元) (C) Xabier Eskisabel
世界遺産「アルタミラ洞窟と北スペインの旧石器時代の洞窟画」、コヴァシエーリャ洞窟のバイソン(復元)
世界遺産「アルタミラ洞窟と北スペインの旧石器時代の洞窟画」、コヴァシエーリャ洞窟のバイソン(復元)

■世界遺産概要

紀元前35,000~前11,000年の後期旧石器時代の壁画や線刻画が残る洞窟群を登録した世界遺産で、特にアルタミラ洞窟はその芸術性の高さからバチカン宮殿(世界遺産)の礼拝堂になぞらえて「先史時代のシスティーナ礼拝堂」と称賛されている。なお、本遺産は1985年に「アルタミラ洞窟 "Altamira Cave"」の名称で単独の洞窟として登録され、2008年に17洞を追加して現在の名称となった。構成資産はスペイン北部ビスケー湾沿岸に点在するアストゥリアス州の6洞、カンタブリア州の9洞、バスク州の3洞の計18洞となっている。

○資産の歴史

古代壁画がまだ知られていなかった時代、カンタブリア海岸の洞窟に壁画が描かれていることは地元の人々に古くから認識されていたようだ。アルタミラの洞窟は1869年に偶然発見されたが、気に留める者はいなかった。1879年、アマチュア考古学者マルセリーノ・サンス・デ・サウトゥオラは地元アルタミラに帰省中、「ウシの絵!」という娘マリアに手を引かれて洞窟に入って壁画を発見した。翌年、壁画と遺物についてまとめて発表したが学界は受け入れず、壁画を確認しても自身で描いた捏造であるとして認めず、サウトゥオラは1888年に亡くなった。20世紀に入ってフランス人考古学者アンリ・ブルイユらが古代の壁画や岩絵に関する発表を行って風向きが変わり、まもなくスペインの考古学界は誤りを認めてサウトゥオラに謝罪し、研究が本格化した。

アルタミラ洞窟(アストゥリアス州)はカルスト台地の斜面、サヤ川からそびえ立つ断崖上約120mに位置している。全長約270mのS字形で、エントランスに続くロビー、大ホール、大サロン、多色ホール、動物ホール、大天井、フレスコ・ホールといった数々の部屋状の空間を有している。それぞれに壁画が見られるが、「先史時代のシスティーナ礼拝堂」と讃えられたのは極彩色の壁画で知られる多色ホールだ。描かれているのは特にバイソンが多いが、他にウシ、ウマ、イノシシ、シカ、ヤギといった哺乳動物が中心で、大きな絵になると全長2.2mに達する。顔料の原料は酸化鉄やマンガン酸化物、黄土といった無機物と木炭や動物性脂肪といった有機物で、これらを組み合わせることでさまざまな色を出している。新しい時代の壁画になると岩の膨らみを利用したり輪郭を彫り込んで、枠に黒の輪郭線を描き、グラデーションで影を意識しながら色を塗って立体感を出すという高度な技術が用いられている。狩猟採取に役立つというレベルの作品ではなく、きわめて高度で美しい自然主義的な芸術表現であることがわかる。こうした顔料の有機物の放射性炭素年代測定、あるいは近年のウラン-トリウム年代測定の結果、古いものはオーリニャック文化(紀元前45000~前28000年頃。諸説あり)の紀元前35000年前後にまでさかのぼり、もっとも多いのはソリュートレ文化(紀元前22000~前17000年頃)とマドレーヌ文化(マグダレニアン文化。紀元前17000~前11000年頃)のものであることが明らかになった。人類はこの洞窟でおよそ25,000年間にわたって生活を行っていたと見られ、洞窟内から種々の石器や骨角器、動物の骨や貝殻、植物の種や実などが発見されている。すでに絶滅しているマンモスやステップバイソン、ホラアナライオン、ホラアナグマ、オーロックスといった動物の痕跡も残されており、当時の自然環境や生活スタイルを知る貴重な手掛かりとなっている。なお、構成資産のいずれの洞窟においても最終氷期が終わる紀元前10000年以前に活動を停止しており、以降の時代の洞窟壁画は発見されていない。

○資産の内容

ラ・ペーニャ・デ・カンダモ洞窟(アストゥリアス州)はナロン川の谷に位置する全長60mほどの洞窟で、ソリュートレ文化を中心とした壁画が発見されており、バイソン、ウシ、ウマ、シカの高度な壁画が確認できる。

ティト・ブスティーリョ洞窟(アストゥリアス州)はセージャ川河口付近に位置する洞窟で、紀元前33000~前11000年頃の数多くの壁画が残されている。バイソンやシカ、トナカイのほか、全長1.75mものウマの絵で知られる。

コヴァシエーリャ洞窟(アストゥリアス州)はカレス川の支流の峡谷に位置し、1994年の道路工事の発破で偶然発見された。40mのギャラリーにはきわめて保存状態のよいマドレーヌ文化の彩色壁画が描かれている。

リョニン洞窟(アストゥリアス州)はカレス渓谷に位置する洞窟で、1957年にチーズを発酵させる洞窟を探していたチーズ業者によって発見された。バイソンやトナカイ、ヤギなど100を超える壁画が発見されている。

エル・ピンダル洞窟(アストゥリアス州)は海を見下ろす断崖に位置する洞窟で、バイソンやウマ、シカ、マンモスの他にハチや人間、幾何学図形の壁画が見られる。

チュフィン洞窟(カンタブリア州)はラマソン川の渓谷に位置し、ソリュートレ文化や紀元前25000年ほどまでさかのぼる壁画が発見されている。バイソン、ウマ、シカ、ヤギなどの赤い絵が多く、多数の抽象図形が見られる。

オルノス・デ・ラ・ペーニャ洞窟(カンタブリア州)はブエルナ渓谷に位置し、絵ではなく岩に彫った線刻画が数多く残されている。最古の線刻画はオーリニャック文化までさかのぼり、マドレーヌ文化まで長期にわたる作品群が見られる。

エル・カスティーリョ洞窟(カンタブリア州)はカスティーリョ山の北麓に位置し、オーリニャック文化までさかのぼるカンタブリア州最古級の線刻画が見られる。新人のクロマニヨン人だけでなく旧人のネアンデルタール人の痕跡も発見されている。

ラス・モネダス洞窟(カンタブリア州)はカスティーリョ山南麓に位置し、美しい鍾乳石で知られる。バイソンやウマ、クマ、ヤギの壁画などが見られるほか、旧石器~鉄器時代の多数の道具類が発見されている。

ラ・パシエガ洞窟(カンタブリア州)はカスティーリョ山の南東に位置する複数の洞窟が連なった洞窟系で、全長120mあるいは70mといった大規模なギャラリーが複数あり、700以上の壁画が発見されている。ソリュートレ文化とマドレーヌ文化を中心に、シカやバイソン、オーロックス、ヤギ、トナカイ、マンモス、トリ、サカナ、人間といった多彩な動物の壁画が見られる。特徴的なのは点や線・多角形といった抽象的な図形の数々で、動物や人体・数を示す一種の表意文字と考えられている。一部の壁画は紀元前65,000年以前との測定結果が出ており、ネアンデルタール人の作品が含まれていることが示唆されている。

ラス・チメネアス洞窟(カンタブリア州)はカスティーリョ山の東麓に位置し、上下2段の洞窟で構成されている。ソリュートレ文化とマドレーヌ文化の壁画を中心としており、下段の洞窟からはさまざまな遺物が発掘されている。

エル・ペンド洞窟(カンタブリア州)は約20,000年前の洞窟壁画が多数発見されており、バイソンやオーロックス、ヤギなどの動物壁画が見られる。

ラ・ガルマ洞窟(カンタブリア州)では洞窟壁画の他に旧石器~中石器時代のさまざまな遺物が出土しており、人間の埋葬跡が発見されている。

コヴァラナス洞窟(カンタブリア州)はカンタブリア州でも屈指とされるシカやウシ、ウマの美しい動物壁画で知られる。

サンティマミーニェ洞窟(バスク州)はウルダイバイ生物圏保存地域に位置する全長365mの洞窟で、バイソンやヤギ、ウマ、シカ、クマ、人間など47点の動物壁画が石炭で黒く描き出されている。

エカイン洞窟(バスク州)はバスク地方でも屈指の洞窟壁画で、オーリニャック文化からマドレーヌ文化まで長期にわたる創作活動が記録されている。64点の壁画のほか数々の線刻画が見られ、半数前後がウマの絵で、他にバイソンやオーロックス、ヤギ、シカ、クマ、サイ、サカナなどが描かれている。ヤギやシカの骨がたくさん発掘されている一方で、ウマの骨はほとんど出土していないことから狩猟とは関係がなく、芸術的意図で描かれたものと考えられている。

アルチェリ洞窟(バスク州)は全長2kmの巨大な洞窟で、1956年の道路工事中の発破で偶然発見された。近年の年代測定で紀元前37,000年との結果が出ており、ヨーロッパ最古級の洞窟壁画のひとつと考えられている。壁画や線刻画に描かれている動物の多くがバイソンで、他にオーロックスやシカ、ヤギ、ウマ、トナカイ、キツネ、ウサギ、サイガ、クズリなどが見られる。最大の絵は全長3mに及ぶ。

以上のほとんどの洞窟では外気や人間の呼気などが与える影響を考慮して一般には公開されていない。ただ、アルタミラ洞窟とエカイン洞窟についてはそれぞれ隣接したアルタミラ博物館とエカインベリにレプリカ洞窟が用意されている。また、その他の洞窟についても近郊の博物館で一部のレプリカや写真が展示されていることが多い。

■構成資産

○アルタミラ洞窟

○ラ・ペーニャ・デ・カンダモ洞窟

○ティト・ブスティーリョ洞窟

○コヴァシエーリャ洞窟

○リョニン洞窟

○エル・ピンダル洞窟

○チュフィン洞窟

○オルノス・デ・ラ・ペーニャ洞窟

○カスティーリョ山、エル・カスティーリョ洞窟

○カスティーリョ山、ラス・モネダス洞窟

○カスティーリョ山、ラ・パシエガ洞窟

○カスティーリョ山、ラス・チメネアス洞窟

○エル・ペンド洞窟

○ラ・ガルマ洞窟

○コヴァラナス洞窟

○サンティマミーニェ洞窟

○エカイン洞窟

○アルチェリ洞窟

■顕著な普遍的価値

○登録基準(i)=人類の創造的傑作

カンタブリア海岸の旧石器時代の洞窟芸術はホモ・サピエンスの歴史の非常に長い期間にわたる芸術文化、それも人類最古級の芸術文化の重要な成果を完全な形で示している。それらは後期旧石器時代のさまざまな期間における人類の創造的な才能を示す傑作である。

○登録基準(iii)=文化・文明の稀有な証拠

1万年以上前に消滅した人類の文明の起源にあたる古代のある段階、後期旧石器時代の狩猟採集民が人間社会の芸術的・象徴的・精神的表現を成し遂げた時代の際立って独創的な証拠を明示している。

■完全性

この地域には壁画や線刻画を有する100以上の洞窟が存在するが、資産には比較的深くに壁画を有し、保全状況にすぐれた洞窟が選ばれている。洞窟の発見以来、人間の進入等による状態変化は避けられないが、現在においては洞窟の入場制限など適切に対処されており、1洞の例外を除いて完全性は非常に良好である。ラ・ペーニャ・デ・カンダモ洞窟は落書きによって完全性がいくらか損なわれたが、他にも保存状態のよい壁画が多く、紀元前32000年に描かれた黒点のように洞窟芸術の歴史の最初期に当たる作品も存在し、一連の洞窟群の中で重要な役割を果たしている。また、アルタミラ洞窟において一時壁画の劣化が進んだが、現在では状態が大きく改善されており、完全性が保たれている。

■真正性

スペイン北部の洞窟芸術の真正性および後期旧石器時代という時代に疑いの余地はなく、異を唱える専門家も存在しない。年代測定については近年新しい測定技術(熱ルミネッセンス年代測定、ウラン-トリウム年代測定、AMS法による放射性炭素年代測定等)を導入して年代の確認と特定が行われている。水の流出その他の原因によって部分的に損傷を受けた洞窟壁画も存在するが、基本的に修復はされていない。現在ほとんどの洞窟が非公開で保護体制は十分といえ、真正性は高いレベルで保持されている。

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