サン・ジョルジオ山はスイス南部に位置する山で、中生代の良質な化石を多数産出する化石地帯として知られる。本遺産は2003年にスイスの世界遺産として登録され、2010年にイタリア側の山麓に拡張された。
中生代がはじまる2億5,000万年前、イタリア半島周辺はテチス海と呼ばれる巨大な海の一部を構成していた。アフリカ・プレートがユーラシア・プレート(特にアドリア海・プレート)の下に沈み込んで大陸が衝突するとやがてテチス海は消滅し、代わりに衝突面が盛り上がってアルプス山脈が誕生した(アルプス造山運動)。南アルプスのサン・ジョルジオ山周辺は中生代(2億5,000万〜6,600万年前)、テチス海の浅瀬でサンゴ礁によって外海と隔てられたラグーン(礁湖)を形成していた。海底は無酸素状態だったため生物の死骸は腐ることなく堆積し、やがて堆積岩(石灰岩や苦灰岩)や石炭(歴青炭)となった。この過程で魚類や爬虫類・甲殻類・貝類といった海洋生物が良質な化石となった。この地層が隆起して標高1,096mの山となったのがサン・ジョルジオ山だ。
サン・ジョルジオ山では19世紀前半から魚類の化石の発掘が進められた。特にイタリア側のベザーノ一帯で1863年にはじまった古生物学者アントニオ・ストッパーニやミラノ大学による調査や、1924年にスイス側で開始されたベルナール・ペイエやチューリヒ大学による調査で魚類や爬虫類の多彩な化石が発見され、きわめて重要な地層であることが明らかになった。
地層は2億4,500万〜2億3,000万年前の中生代三畳紀中期を中心に古生代ペルム紀~新生代古第三紀の6層に及び、およそ100種の魚類、35種の爬虫類、100種の無脊椎動物を含む21,000種を超える化石が発掘されている。代表的な化石として、はじめて全身骨格が発見された爬虫類ティキノスクス、6mもの化石が発見されたベサノサウルス、きわめて長い首を持つタニストロフェウス、魚竜の代表種であるイクチオサウルス、板歯目の代表種であるプラコドゥスなどが挙げられる。爬虫類や魚類以外の化石も多く、中生代末に絶滅したアンモナイトをはじめとする100種の類足類、針葉樹林や草原を構成していたと思われる50種の植物や、トンボをはじめとする昆虫、キノコなどの菌類、胞子・花粉・微生物の化石も発掘されている。
サン・ジョルジオ山は中生代三畳紀の海洋生物のもっともよく知られた記録であり、同時に陸上生物についても貴重な史料を伝えている。資産では多様で多数の化石が発掘されており、その多くは並外れて完全であり細部までよく保存されている。資産の長期にわたる研究と資源の規律ある管理の内容は文書化され、あるいは卓越した品質を持つ標本としてカタログ化され、地質学の豊富な基礎資料となっている。その結果、サン・ジョルジオ山は世界中の中生代三畳紀の海洋生物に関する将来の発見に重要な示唆を与えている。
資産は主要な化石出土地域を含むサン・ジョルジオ山の中生代三畳紀中期の地層を含んでいる。イタリア側の資産部分は、2003年に世界遺産リストに登録されたスイスの資産が2010年に拡大されたものであり、これにより化石地帯として資産の完全性が補強されている。この地域には化石を含んだ無傷の地層の露出部分がきわめて多く、この点が顕著な普遍的価値の大きな特徴となっている。