西ノルウェーフィヨルド群-ガイランゲルフィヨルドとネーロイフィヨルド

West Norwegian Fjords – Geirangerfjord and Nærøyfjord

  • ノルウェー
  • 登録年:2005年
  • 登録基準:自然遺産(vii)(viii)
  • 資産面積:122,712ha
  • IUCN保護地域:Ia=厳正保護地域、V=景観保護地域
世界遺産「西ノルウェーフィヨルド群-ガイランゲルフィヨルドとネーロイフィヨルド」、ガイランゲル周辺。手前の窪地がU字谷で奥がフィヨルド
世界遺産「西ノルウェーフィヨルド群-ガイランゲルフィヨルドとネーロイフィヨルド」、ガイランゲル周辺。手前の窪地がU字谷で奥がフィヨルド。このようなU字谷に海水が流れ込むことでフィヨルドが形成される (C) Stefan Krause, Germany
世界遺産「西ノルウェーフィヨルド群-ガイランゲルフィヨルドとネーロイフィヨルド」、フリーダルスユーヴェから見下ろしたガイランゲル
世界遺産「西ノルウェーフィヨルド群-ガイランゲルフィヨルドとネーロイフィヨルド」、フリーダルスユーヴェから見下ろしたガイランゲル
世界遺産「西ノルウェーフィヨルド群-ガイランゲルフィヨルドとネーロイフィヨルド」、ガイランゲルフィヨルド。左奥がガイランゲル
世界遺産「西ノルウェーフィヨルド群-ガイランゲルフィヨルドとネーロイフィヨルド」、ガイランゲルフィヨルド。左奥がガイランゲル (C) Ximonic (Simo Räsänen)
世界遺産「西ノルウェーフィヨルド群-ガイランゲルフィヨルドとネーロイフィヨルド」、バッカノシから見下ろしたネーロイフィヨルド
世界遺産「西ノルウェーフィヨルド群-ガイランゲルフィヨルドとネーロイフィヨルド」、バッカノシから見下ろしたネーロイフィヨルド (C) Vincent
世界遺産「西ノルウェーフィヨルド群-ガイランゲルフィヨルドとネーロイフィヨルド」、グドヴァンゲン付近から見たネーロイフィヨルド
世界遺産「西ノルウェーフィヨルド群-ガイランゲルフィヨルドとネーロイフィヨルド」、グドヴァンゲン付近から見たネーロイフィヨルド (C) Jorge Láscar

■世界遺産概要

フィヨルドとは、氷河が山をU字形に削ったU字谷に海水が流れ込んでできた氷河地形を示す。海面から急峻な断崖が立ち上がるダイナミックな景観が特徴で、断崖には多数の滝が滑り落ちている。ガイランゲルフィヨルド地域は世界でもっとも美しいといわれる典型的なフィヨルドで、約120km南に位置するネーロイフィヨルド地域は北極圏を除くと世界最長を誇るソグネフィヨルドの支流でディズニー・アニメ『アナと雪の女王』の景観のモデルとしても知られている。構成資産122,712haのうち陸域が111,966ha、海域が10,746haで、フィヨルドを中心としながらもU字谷や圏谷(けんこく)・氷河湖・モレーンといった氷河地形や深い山岳地帯が対象となっている。

○資産の歴史と内容

極地が厚い氷で覆われている時代を「氷河時代」と呼ぶが、新生代(6,600万年前~現在)は幾度もの氷河時代を経験していることがわかっている。特に新生代第四紀(約258万年前~現在)の氷河時代は寒冷期である氷期と寒さが緩む間氷期を繰り返しており、7万前にはじまった最新の氷期=最終氷期は約1万年前に終了し、現在は間氷期に入っていると考えられている。最終氷期のピークは約2万年前で、フェノ=スカンジア地方(スカンジナビア半島とフィンランドの一帯)やユトランド半島、ブリテン諸島といった北ヨーロッパはスカンジナビア氷床(フェノ=スカンジア氷床)と呼ばれる最大で厚さ数千mに及ぶ巨大な氷床(大陸レベルの巨大な氷塊。5,000,000ha以上で、それ未満は氷帽と呼ばれる)に覆われていた。このスカンジナビア氷床がスカンジナビア半島南西部の景観を劇的に変えた。

スカンジナビア半島の西にはスカンジナビア山脈と呼ばれる全長約1,700kmの山脈が走っており、山脈の南西部はノルウェー海に急激に落ち込んでいる。最終氷期、この斜面にスカンジナビア氷床から大量の氷河が流れ落ち、氷河は山を削ってさまざまな氷河地形を生み出した。代表的な氷河地形としては、氷河が山を削ってU字形に谷を掘り抜いたU字谷、クレーター状に穴を穿った圏谷、取り残された険しい峰・ホルン、のこぎり状の山稜・アレート、えぐられた窪地・コリー、窪地にできた氷河湖、氷河によって削られた土や石が集まって層を作るモレーンなどが知られている。フィヨルドもそんな氷河地形のひとつで、最終氷期が終わってスカンジナビア氷床が消滅した7,000~5,000年ほど前にU字谷を掘った氷河も消え去り、世界中の氷床や氷河が溶けた結果、海水面が100m以上も上昇し(完新世海進/縄文海進)、U字谷に海水が流れ込んでフィヨルドを形成した。北のオンダールスネスから南のスタヴァンゲルまで約500kmにわたって伸びる西ノルウェーのフィヨルド地帯にはこうしてできたフィヨルドが200以上も確認されている。同様の巨大なフィヨルド地帯はグリーンランドやカナダ北部でも見られるが、いずれも北極圏で陸域・海域ともに多くが氷に閉ざされているのに対し、西ノルウェーでは山地に残る山岳氷河や雪原・雪渓を除いてほとんど氷が越年することはなく、緑や滝に彩られたフィヨルドの絶景が展開している。こうした北極圏外のフィヨルド地帯としては世界最大・最長・最深を誇る。

ガイランゲルフィヨルド地域はフィヨルド地帯の中で北端近くに位置し、海岸沿いの町オーレスンから110kmにわたって伸びるストールフィヨルドの最奥部の一帯に広がっている。内陸60kmほどから分岐する全長約26kmのサンニールスフィヨルドと、その奥でL字形に分岐する全長約15kmのガイランゲルフィヨルド、ストールフィヨルド最奥部で全長約7kmのタフィヨルドとそれぞれの周辺山地が含まれている。フィヨルドの幅は600~2,000mで、山地の最高峰はトルヴロイサ山の標高1,850mと高く、フィヨルドは最大水深500mほどの海中から標高1,400mほどまで一気に駆け上がっている。両岸が切り立った典型的なフィヨルドが多く、世界でもっとも美しいフィヨルドのひとつに数えられている。海水のない巨大なU字谷も見られ、海と山の氷河地形が対照をなしている。また、高緯度の2,000m近い山地であることから氷河や永久凍土・雪原・雪渓といった氷の地形も多く、これらが水源となって七姉妹、花嫁のベール、求婚者といった数多くの滝を生み出している。ただ、落石や地滑りも多く、タフィヨルドでは1934年4月7日の地滑りで最大62mの津波が発生し、数多くの犠牲者を出した。最奥部のガイランゲルやタフィヨルドといった村々はノルウェー随一の観光地で遊覧船によるフィヨルド観光や山岳トレッキングが人気を博しているが、こうした沿岸の町では津波に対する緊急防災システムが調えられている。

一方、ネーロイフィヨルド地域は北極圏を除いて最大・最長・最深のフィヨルドであるソグネフィヨルド(全長205km・最大幅4.5km・最大水深1.3km)の支流と山地に広がる一帯で、内陸約100kmほどの位置から分岐する全長29kmのアウルランズフィヨルドと、そこからY字形に分岐する全長18kmのネーロイフィヨルドおよびそれぞれの周辺山地が含まれている。フィヨルドの幅は250~2,500mで、両岸の断崖の高さは900~1,400m、最大水深は約500m、山地の最高峰はスティガノシ山で標高1,761mとなっている。ガイランゲルフィヨルド地域ほど標高は高くはないが、山地にはやはり氷河湖や氷河・雪原・雪渓が多く、特に河川を中心とした深い渓谷を特徴としている。一例がアウルランズフィヨルド最奥部の村フロムを流れるフロム川、アウルランズヴァンゲンのアウルランズ川、ネーロイフィヨルド最奥部のグドヴァンゲンに注ぐネーロイダルセルビ川と周囲の渓谷で、こうした渓谷はU字谷となっている。ネーロイフィヨルドの絶景はディズニー・アニメ『アナと雪の女王』のアレンデール周辺の景観のモデルとなったことでも知られている。

いずれのフィヨルド地域でも山地では植物の垂直分布が見られ、海岸周辺の落葉針葉樹林がやがて常緑針葉樹林となり、1,400m辺りを超えるとヒース(荒れた低木帯や草原、あるいはそこに生える植物)や荒原を経てツンドラ(永久凍土上の荒原)や雪原・氷河となり、あちらこちらに氷河湖や湿原が広がっている。動物相も独特で、ホッキョクギツネやカワウソ、4種のシカをはじめとする陸生哺乳類や、アザラシ、イルカ、クジラといった海洋哺乳類が豊富に見られる。海岸や湿地には鳥類も多く、100種以上が記録されている。

フィヨルドやU字谷の側面には古生代(5億4,000万~2億5,000万年前)以前の先カンブリア時代までさかのぼる地層が露出しており、地下深くで生成された片麻岩や橄欖(かんらん)岩・蛇紋岩・斜長岩・斑糲(はんれい)岩が見られ、海底や下流ではこうした岩石が堆積したモレーンが広がっている。

■構成資産

○ガイランゲルフィヨルド地域

○ネーロイフィヨルド地域

■顕著な普遍的価値

○登録基準(vii)=類まれな自然美

ガイランゲルフィヨルド地域とネーロイフィヨルド地域は地球上でもっとも景観的にすぐれたフィヨルド地帯のひとつと考えられている。その卓越した自然美はノルウェー海から一気に標高1,400mまで上昇し、海面下500mまで伸びる狭く峻険な結晶質の断崖に由来する。険しい山々や氷河・氷河湖から小川が針葉樹林を縫うように自由に流れており、フィヨルドの断崖で数多くの滝となって海に落ちている。海底モレーンが堆積し、海洋哺乳類が生活を行う海域は陸海両面の自然現象や生態系のベースとなっている。そして現在はほとんど放棄されている移牧地の名残がドラマティックな自然景観に文化的な側面を与えており、人々の関心をいっそうかき立てている。

○登録基準(viii)=地球史的に重要な地質や地形

西ノルウェーフィヨルド群は巨大で最高水準のフィヨルド地帯であり、世界のフィヨルド景観の典型と考えられている。この地のフィヨルドはすでに世界遺産リストに登録されている他のフィヨルドに劣らない規模と品質を誇り、気候と地質学的特徴によって差別化されている。ふたつの構成資産は世界有数の長さと深さを誇るふたつのフィヨルド地帯の内陸中心部をカバーしており、更新世の最終氷期に形成された若く活発で大規模な氷河作用の証拠を示している。フィヨルド側面の断崖は氷と波に侵食されて岩盤を露出し、立体的な侵食・地層の構造を表している。最終氷期終了後にフィヨルド地帯は110mほど隆起したが、氷床や氷河が溶けて軽くなった大地が隆起するアイソスタティック・リバウンド(地殻均衡復元。マグマと地殻がバランスを取るアイソスタシー=地殻均衡の作用の一種で、氷河を伴ったグレイシオ・ハイドロアイソスタシー=氷河性地殻均衡によるリバウンド現象)の記録とフィヨルドの景観に表現されたその地形的特徴も重要であり、また斜面の不安定性から生じる地滑りや津波といったジオハザード(地質災害)の研究に関しても重要な地域となっている。

■完全性

ふたつのフィヨルド地域には海面下深くから一気に立ち上がる高く急峻な断崖、土砂崩れや雪崩の痕跡および堆積物、モレーン、ティル(氷河の侵食でできた岩屑)、懸谷(高低差の大きな川の合流部分の谷)、氷河、川、滝をはじめ多彩な景観を持つ山地や集水域が含まれており、フィヨルドの景観を特徴付けるすべての特徴が含まれている。また、それぞれのフィヨルドは異なる地形学的・地質学的特徴を有しており、フィヨルドの景観とその歴史的進化がもたらす自然のほとんどの特徴を含んでいる。構成資産の範囲はそうした特徴を保護し、景観的な品質を維持するために適切であり、法制度の整備や人員配置・予算などについても完全性を保持するために十分である。

ノルウェーの西海岸に存在するおよそ200のフィヨルドのうち、ガイランゲルフィヨルド地域とネーロイフィヨルド地域は水力発電ダムなどのインフラをはじめとする人間活動の影響をもっとも受けていない手付かずの地域である。懸念材料としては、周辺地域での採石が挙げられる。橄欖岩は現在、資産の外で採石されているが、ガイランゲルフィヨルド地域に比較的近く、近郊で別の採石場の計画も進められている。こうした影響は局所的なものであり、採石が中止されると回復するものではある。また、斜長岩の地下採石はネーロイフィヨルド地域の周辺で行われており、将来的に拡大する可能性がある。フィヨルドに直接隣接しているわけではないが、工場はネーロイダレン渓谷の道路から確認することができ、視覚的な完全性に影響を与えている。

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