ラポニアン・エリア

Laponian Area

  • スウェーデン
  • 登録年:1996年
  • 登録基準:複合遺産(iii)(v)(vii)(viii)(ix)
  • 資産面積:940,900ha
  • IUCN保護地域:Ia=厳正保護地域、II=国立公園、IV=種と生息地管理地域、V=景観保護地域
世界遺産「ラポニアン・エリア」、ライタウレ湖に注ぐラパ渓谷のデルタ地帯
世界遺産「ラポニアン・エリア」、ライタウレ湖に注ぐラパ渓谷のデルタ地帯
世界遺産「ラポニアン・エリア」、サーレク国立公園、ラパ渓谷
世界遺産「ラポニアン・エリア」、サーレク国立公園、ラパ渓谷
世界遺産「ラポニアン・エリア」、パジェランタ国立公園、ヴァステンヤウレ湖周辺の荒涼たる風景
世界遺産「ラポニアン・エリア」、パジェランタ国立公園、ヴァステンヤウレ湖周辺の荒涼たる風景
世界遺産「ラポニアン・エリア」、パジェランタ国立公園、スタロルオクタに残るサーミ人の伝統家屋ゴアテ
世界遺産「ラポニアン・エリア」、パジェランタ国立公園、スタロルオクタに残るサーミ人の伝統家屋ゴアテ (C) Ökologix
世界遺産「ラポニアン・エリア」のオーロラ
世界遺産「ラポニアン・エリア」のオーロラ
世界遺産「ラポニアン・エリア」のトナカイ
世界遺産「ラポニアン・エリア」のトナカイ

■世界遺産概要

スウェーデン北部の北極圏に位置し、ほとんど手付かずの高山・氷河・ツンドラ(永久凍土上の荒原)・タイガ(亜寒帯針葉樹林)・湿原・湖沼などが広がるラポニアン・エリア。雄大な自然の中で、先住民族であるサーミ人(サーメ人/ラップ人)はトナカイの移牧を中心とした生活をいまに伝えている。世界遺産の資産940,900haの約95%に当たる893,400haは4つの国立公園(パジェランタ、サーレク、スターラ・フェーファレット、ムッドゥス)と2つの自然保護区(ハウニャ、ストゥッバ)に含まれており、これ以外にスリティエルマ氷河地域、ショルタ渓谷、ライタウレ湖のラパ渓谷デルタなどが登録されている。

○資産の歴史と内容

ラポニアン・エリアは大きく分けて2つの地域、東部の平野部とスカンジナビア山脈を中心とした西部の山岳地帯で構成されている。1/3を占める東部の平野はその多くがタイガで、マツやモミ、トウヒといった針葉樹の原生林で覆われている。多数の河川が流れており、ヨーロッパ西部最大級の泥炭湿原をはじめ、湖沼・デルタ(三角州)・多角形土(地面が凍結して表れた多角形のパターン)・パルサ(凍土が作る泥炭のマウンド)といった特有の地形を形成している。サーレク国立公園とハウニャ自然保護区の一部はラムサール条約(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)の登録湿地でもある。

資産の2/3は西部の山岳地帯で高山や渓谷が占めている。山地には標高1,800mを超える100以上の峰が連なっており、100に及ぶ氷河と永久凍土・雪原に閉ざされた極寒地帯で、下層はヒース(荒れた低木帯や草原、あるいはそこに生える植物)・地衣帯・高山草原・低木帯・タイガを経てカバノキのような落葉広葉樹林が続いている。新生代(約6,600万年前~現在)に繰り返され、約1万年前に終了した氷期に氷河による大規模な侵食を受けており、氷河が山を削り取ったU字谷やクレーター状に穴を穿った圏谷(けんこく)、削った石や土が堆積したモレーン、氷河によって形成された丘・ドラムリン(氷堆丘)、窪地にできた氷河湖といったダイナミックな氷河地形が展開している。山地から流れる多数の河川がショルタ渓谷やラパ渓谷といった深い渓谷を穿ち、東部の平野に注いでいる。

動物相について、鳥類はイヌワシ、オジロワシ、シロハヤブサ、オオハクチョウなど150種を超え、大型哺乳動物もホッキョクギツネ、ヒグマ、オオヤマネコ、クズリ、カパーカイリーと多彩だ。狩りによってヨーロッパからほとんど姿を消したヘラジカ、カワウソ、マツテンが多数生息していることでも知られる。トナカイはこの地方の象徴的な動物で、「トナカイ」もラップ語に由来するといわれる。平均して体長130cm・体重100kgほどで最大200cm・300kg超に達し、雪の下の草や地衣類・樹皮を食べることで他の動物がいない厳しい環境を生き抜くことができる。雪融けに合わせてつねに移動しており、雪原や渓谷・湿地を走破する高い能力を持ち、最高時速は70km/hに達する。オスの大きな角はメスを巡るオス同士の争いやオオカミ、クマといった捕食者に対する武器となっている。

人類は最終氷期が終わる約1万年前に到達したと考えられており、7,000~6,000年前の遺跡が発掘されている。5,000~4,000年前にサーミ人が平野部の河川や湖岸に入植し、狩猟採取生活を行った。特に重要だったのがトナカイで、食肉・毛皮・骨角器などとして余すことなく利用された。紀元前2000年頃にトナカイの家畜化がはじまり、トナカイとともに点々と移動を続ける遊牧を行った。16~17世紀になると、夏は平野の定住地で過ごし、冬は山に登って放牧を行う移牧が定着した。トナカイはトナカイ乳やソリの運搬といった用途にも活躍した。移牧は現在でも行われており、西部の湖沼地帯を中心に200~250人ほどのサーミ人が指定エリアで30,000~35,000頭ほどのトナカイを飼育している。パジェランタ国立公園やサーレク国立公園にはサーミ人による埋葬跡やペトログリフ(線刻・石彫)、放牧のためのフェンス、シラカバとシバで造った伝統家屋ゴアテなどの遺跡が残されている。

■構成資産

○ラポニアン・エリア

■顕著な普遍的価値

○登録基準(iii)=文化・文明の稀有な証拠

ラポニアン・エリアはトナカイの放牧の伝統を伝える稀有な証拠である。かつて北ヨーロッパで広く行われており、人類の経済的・社会的発展の初期段階にまでさかのぼる移牧文化の最後の証であり、もっとも大きくもっとも保存状態のよい例であることに疑いの余地はない。

○登録基準(v)=伝統集落や環境利用の顕著な例

ラポニアン・エリアは伝統的な土地利用のすぐれた例であり、季節ごとに移動を繰り返すトナカイの移牧を中心としたサーミ人の先祖伝来の生活様式を反映した文化的景観である。

○登録基準(vii)=類まれな自然美

ラポニアン・エリアでは卓越した美しさを持つ多彩な自然現象が観察される。雪に覆われたサーレク国立公園とスリダールマ山塊の山々は美しいだけでなく、多数の氷河を有する地形学の教科書的存在として知られている。スウェーデンとノルウェーの国境に位置するパジェランタ国立公園はスカンジナビア・アルプスを背景に多数の湖沼が点在し、その美しさは際立っている。こうした高山地帯の景観と対照的なのがラパ渓谷で、断崖絶壁に囲まれた広く深い渓谷が下流でデルタに移行し、湖・湿地・平野と接続するダイナミックな景観を見せている。サーミ人の伝統家屋ゴアテなどサーミ文化の存在がこの地の美的価値をさらに高めている。

○登録基準(viii)=地球史的に重要な地質や地形

資産にはU字谷、モレーン、タルス(崖錐)、ドラムリン、崩れやすい断崖や急速に流れる氷上河川など氷河の活動に関するすべてのプロセスが含まれており、川は現在も岩盤を切り裂いて渓谷を形成しつづけている。また、ツンドラにおける氷と霜の作用で生み出される多角形土やパルサといった特殊な地形も確認でき、植生のない場所では風化現象が起きている。資産はまた生態系の一部として7,000年にわたる人類の痕跡を留めている。

○登録基準(ix)=生態学的・生物学的に重要な生態系

ハウニャ自然保護区の広大な湿原はロシアを除いてヨーロッパ最大を誇り、一帯は地盤が凍る冬を除いて人間が立ち入ることができない秘境となっている。ラポニアン・エリアの針葉樹の原生林は700年前までさかのぼると推定され、長きにわたって損なわれることなく自然が継承されている。

■完全性

ハウニャの4集落とラパ渓谷デルタの一部を除き、資産の99%は国有地で、法的に保護されている。水力発電開発のためにスターラ・フェーファレット国立公園近郊に築かれた人工湖ストゥーラ・ルーレ湖の周辺を除き、資産はほぼ手付かずで残されている。ストゥーラ・ルーレ湖は資産外であり、資産の完全性に影響を及ぼすものでもない。また、スターラ・フェーファレット国立公園の東のヴィエタス近郊でも水力発電システムが見られるが、はるかに小規模なもので影響はないと思われる。より問題とされているのは資産のすぐ外側に建設された風車群で、資産の視覚的完全性に対する脅威になりうるとして議論が進められている。

現在も行われているトナカイの移牧はいくつかの点で現代的な技術を取り入れているが、地域の主要な産業であることに変わりはない。トナカイの飼育はスウェーデンの法律においてサーミ人に保証されたひとつの権利であり、他にも放牧・伐採・漁労・狩猟や保護地域へのイヌの導入といった伝統的な権利を保持している。

隣接するノルウェーのテュスフィヨール/ヘロモのフィヨルド地域へ資産を拡大する可能性が検討されており、ノルウェー政府は当該地域を国立公園化する計画を模索している。

■真正性

資産の真正性はサーミ人の文化であるトナカイの放牧と山地への群れの季節移動(移牧)に表れており、維持されている。移牧の継続と発展はサーミ文化の存続の基本的な条件である。景観の真正性と移牧のプロセスはともに維持されているが、電力を用いた輸送をはじめ部分的に現代的な技術の導入が進められており、自然環境に対する不可逆的な影響が懸念される。こうした変化に対して適切な管理が必要である。サーミ文化の建造物はゴアテのような伝統的な家屋やフェンスから近代的な小屋まで多岐にわたり、トナカイの放牧が継続的に行われてきたことを可視的に示している。

資産内の考古遺跡は7,000~6,000年前に人間がこの地で活動していたことを示しており、トナカイの狩猟から放牧へ移行したことを表す多数の証拠が確認できる。これらは全体的に良好な状態にあるが、体系的な考古学的調査が行われているのは1/3ほどで、遺跡の状態や損傷について記した書類は300点ほどしか存在しない。残りの遺跡の調査を実施し、保存状況を確認・評価して適切な保全・管理方法を策定することが不可欠である。

■関連サイト

■関連記事