イングランド中西部チェシャー州ロウワー・ウィジントンに位置する世界初の電波天文台で、ラヴェル望遠鏡やマークII望遠鏡などによって宇宙観測に新時代を切り拓いた。
1945年、レーダーの研究を行っていたマンチェスター大学のバーナード・ラヴェルは、電波の干渉の少ない場所で研究を行うために研究所を都市部から静かなこの地に移転した。ラヴェルは軍事用のレーダー装置を集めて同年12月に稼働を開始し、流星の観測を行った。それまでの天文学は人の目で観測できる可視光線による研究だったが、電波を利用した天体観測の先駆けとなった。
1947年には直径66mという当時世界最大を誇ったトランジット望遠鏡が完成。後に解体されるが電波天文学の発展に大きな役割を果たした。そして1957年、現在も天文台のランドマークとなっているラヴェル望遠鏡が完成する。
チャールズ・ハズバンドが構造設計を担当したラヴェル望遠鏡は高さ89m・口径76.2m・総重量3,200tを誇り、同様の望遠鏡としては当時世界最大で、現在でも世界で3番目という規模を誇る。空のあらゆる場所に焦点を合わせることができる可動式の電波望遠鏡で、完成当初は同年に打ち上げられたソ連による世界初の人工衛星スプートニク1号・2号の追跡を担当した。その後もルナ計画やパイニア計画など米ソ両国の人工衛星や月・惑星探査機・ICBM(大陸間弾道ミサイル)を追跡して冷戦時の宇宙競争を観測しつづけた。宇宙についても金星や天の川銀河、パルサー(一定周期のパルス状の電波を放射する天体)の観測など多方面で活動して実績を残した。
1964年にはトランジット望遠鏡を解体したその場所に、高さ81.7m・長径38.1m・短径25.4mという楕円系のパラボラ面を持つマークII望遠鏡が完成。ラヴェル望遠鏡とともにクエーサー(数十億光年という遠方にある膨大なエネルギーを放出する天体)や重力レンズ効果(重い天体の影響で光が曲げられて背後や周囲の天体が複数に見えたり歪んで観察される現象)の観測をはじめ、数々の画期的な成果を残した。
ジョドレル・バンク天文台はラヴェル望遠鏡とマークII望遠鏡を含むイギリスの7基の電波望遠鏡を結んだ観測ネットワーク "e-MERLIN" の中心でもあり、その本部が置かれている。共同観測によってクエーサーやアインシュタイン・リング(重力レンズ効果によって円形に歪められた銀河や星の光)などが観測されている。
また、21世紀に入って数千ものアンテナを並べて宇宙を観測するSKA(スクエア・キロメートル・アレイ)計画が進められ、ジョドレル・バンク天文台にSKA機構本部ビルとしてスクエア・キロメートル・アレイ ・ビルが建設された(SKA天文台はローマ)。アンテナ群はオーストラリアと南アフリカを中心に3,000km以上にわたって建設され、2020年代後半からかつてない規模で電波による宇宙観測が行われる予定だ。
ジョドレル・バンク天文台は科学的および技術的成果に関する人類の創造的な才能を示す傑作である。トランジット望遠鏡やラヴェル望遠鏡といった革新的な機器を生み出すためのレーダーや高周波への対応は、科学研究のまったく新しい分野の開発における重要な要素であり、宇宙の理解についてドラマティックな変革をもたらした。同天文台は電波天文学の先駆的段階とその後の進化において重要な役割を果たした。
ジョドレル・バンク天文台はグローバルな共同研究ネットワークの中心にあったように、電波天文学に関する技術開発について長期的かつ世界規模の人類の価値の重要な交流を表している。大型パラボラ・ディッシュ望遠鏡や干渉計をはじめいくつかの重要な技術的発明が同天文台でなされ、後に世界の多くの地域の科学的研究に影響を与えた。
ジョドレル・バンク天文台は人類の歴史の重要な段階(1940〜60年代)を示す技術的建造物群の際立った例である。光学天文学から電波天文学への移行期に当たるもので、多波長天体物理学による新たな宇宙の解釈を生み出した。また、この資産は科学研究を支援・実施する方法に大きな変革をもたらし、ビッグ・サイエンス(巨大科学)の発展に寄与した。戦後の開拓段階から洗練された大規模な研究活動を通してなされた電波天文学の進化的発展に関する証拠はいまなお生きており、ジョドレル・バンク天文台を際立った技術的建造物群の一例に引き上げている。
ジョドレル・バンク天文台は顕著な普遍的重要性を持つ出来事やアイデアに直接的に視認できる形で関連付けられている。資産における電波天文学の新しい分野の発展は、可視光線を超えて電磁スペクトルを探索する光学天文学の可能性を超えた研究を通じてのみ可能であり、結果的に革命的な宇宙の解釈をもたらした。同天文台での電波天文学による研究により、宇宙の特性と規模の理解は劇的に変化した。
資産は先駆的な天文学研究を行った遺産として開発を証明するすべての特徴を保持している。その価値は仮設・再使用・借用した機器を含め、開発当初からすべての開発段階における建造物・物理学的遺物・考古学的遺物によって表されている。トランジット望遠鏡に代表されるいくつかの重要な段階については無傷では残っていないが痕跡は残されている。後の大規模で野心的な機器、たとえば天文台の象徴でもあるラヴェル望遠鏡とコントロール・ビルは維持されている。それ以外にも研究にとって重要であるか、天文台の仕事をサポートするさまざまな建築物・構築物を多数備えている。
ラヴェル望遠鏡やマークII望遠鏡が施設の中心であるが、一般的にすべての建造物は非常によく保存されている。いくつかの初期の木造建造物は使用されず放棄されているが、こちらも修復される予定である。敷地は手入れが行き届いており、最近の建物はシンプルで落ち着いた外観で、資産の全体的な価値を損なっていない。観測所の機能を周辺の電波干渉から保護するためにコンサルテーション・ゾーンが設定されているが、ここがバッファ-・ゾーンに指定されており、資産の機能的完全性の維持に貢献している。
資産の配置は当初のままで、スクエア・キロメートル・アレイ ・ビルのの建設を除き、農業景観を含めて大部分は変わっていない。形状とデザインは資産の重要な発展の歴史を反映して時間とともに進化してきたが、望遠鏡の反射面のリニューアルや修理のように建造物の質よりも科学的研究が優先される研究所としての特性を反映している。素材と原料の大部分は保持されているが、経年劣化した材料はいくらか交換されている。資産は科学的研究所として現在でも継続的に使用されつづけている。