ウェストミンスター宮殿、ウェストミンスター寺院及び聖マーガレット教会

Palace of Westminster and Westminster Abbey including Saint Margaret’s Church

  • イギリス
  • 登録年:1987年、2008年軽微な変更
  • 登録基準:文化遺産(i)(ii)(iv)
  • 資産面積:10.26ha
世界遺産「ウェストミンスター宮殿、ウェストミンスター寺院及び聖マーガレット教会」、ウェストミンスター宮殿
世界遺産「ウェストミンスター宮殿、ウェストミンスター寺院及び聖マーガレット教会」、ウェストミンスター宮殿。右の時計塔がビッグ・ベン、左の塔がヴィクトリア・タワー
世界遺産「ウェストミンスター宮殿、ウェストミンスター寺院及び聖マーガレット教会」、ウェストミンスター寺院
世界遺産「ウェストミンスター宮殿、ウェストミンスター寺院及び聖マーガレット教会」、ウェストミンスター寺院の北ファサード、右はウェスト・ワークの双塔。イギリスでは珍しくフランス・ゴシックの影響を多分に受けている
世界遺産「ウェストミンスター宮殿、ウェストミンスター寺院及び聖マーガレット教会」、ウェストミンスター寺院隣接のヘンリー7世礼拝堂
世界遺産「ウェストミンスター宮殿、ウェストミンスター寺院及び聖マーガレット教会」、垂直式ゴシックの傑作として名高いウェストミンスター寺院隣接のヘンリー7世礼拝堂
世界遺産「ウェストミンスター宮殿、ウェストミンスター寺院及び聖マーガレット教会」、聖マーガレット教会
世界遺産「ウェストミンスター宮殿、ウェストミンスター寺院及び聖マーガレット教会」、聖マーガレット教会。右はウェストミンスター寺院、奥にビッグ・ベン (C) rene boulay

■世界遺産概要

イギリスの首都ロンドンに位置し、つねにイングランド王国の中心を担った3つの遺産、イングランド議会の象徴・ウェストミンスター宮殿、イングランド王室の象徴・ウェストミンスター寺院、イングランドの故郷・聖マーガレット教会からなる世界遺産。なお、本遺産は2008年の軽微な変更で資産を若干拡大し、構成資産をひとつに統合した。

○資産の歴史と内容

北海に通じるロンドンのテムズ河畔は古くから戦略上の要衝として知られていた。1042年にイングランド王に 即位したエドワード懺悔王はロンドンの修道院の西に王家の宮殿と教会を建設したことから「ウェストミンスター」の名が付いたと考えられている。

1066年にエドワード懺悔王が亡くなると、諸侯はウェストミンスター寺院に集合してハロルド2世をイングランド王として承認した。この時代、イングランドでは同じゲルマン系の中でもアングロ・サクソン人、デーン人、ノルマン人が勢力を争っていた。ノルマン人の国であるフランス北部のノルマンディー公ギヨーム2世はイングランドに攻め込んでハロルド2世を討つと、同年のクリスマスにウェストミンスター寺院で戴冠式を行って王位に就いた。ノルマン人による支配=ノルマン・コンクェストのはじまりだ。以来、ウェストミンスター寺院では戴冠式をはじめとする王室行事が執り行われており、現在の女王エリザベス2世も1953年6月2日にここで戴冠を受けている。

現在の建物は国王ヘンリー3世の命で1245年に建設が開始された。ヘンリー3世はエドワード懺悔王や自らの棺を埋葬する荘厳な教会堂が必要と考え、フランスから建築家を招いてゴシック様式で建て替えた。もともとベネディクト会の修道院教会あるいは大聖堂だったが、16世紀のヘンリー8世による修道院解散令を受けて王家直属となった。歴代の王をはじめ、ニュートンやダーウィン、テニスンなど多くの著名人が埋葬されている。隣接するヘンリー7世礼拝堂は16世紀はじめの建設で、柱や窓・装飾に縦のラインを入れて垂直性を際立たせた垂直式ゴシックの傑作として知られ、天井にはイギリス特有の扇状(ファン)ヴォールトも見られる。

ウェストミンスター宮殿はその名の通りもともとはイングランド王の宮殿だ。王位に就いたウィリアム1世は諸侯の編成をノルマン人中心に変え、アングロ・サクソン人の諸侯の勢力を削って領地を分散させ、諸侯を宮殿に集めて「キュリア・レジス」と呼ばれる議会を開催した。議会はこのように王と諸侯が国の政治を討議する場所であり、13世紀のシモン・ド・モンフォール議会や模範議会もこの宮殿で開催された。

16世紀はじめに火災が発生して王の居室付近が焼失してしまう。時の王・ヘンリー8世は居城をホワイトホール宮殿に移し、宮殿は主に議会と裁判所として使用されるようになった。さらに1834年10月16日の大火災によってウェストミンスター・ホールやジュエル・タワー、聖ステファン教会地下室などを残して宮殿の大半が失われた。現在のゴシック・リバイバル様式の宮殿はチャールズ・バリーとオーガスタス・ウェルビー・ピュージンの設計で1840~76年に再建されたものだ。

新宮殿は全長266mに及び、南のヴィクトリア・タワーの高さは98m、北のビッグ・ベンは96.3mを誇る。現在は議会と裁判所の伝統を引き継ぎ、主として国会議事堂や最高裁判所として使用されている。ヴィクトリア・タワーには議会公文書館があり、権利の章典などが収められている。ビッグ・ベンは時計塔で、文字盤の大きさは直径7mにもなり、手動ゼンマイ式で15分ごとに鐘の音を鳴らす。正午には「キンコンカンコーン」で知られる「ウェストミンスターの鐘」を響かせている。

ウェストミンスター寺院に隣接する聖マーガレット教会はウェストミンスター宮殿の教区教会で、12世紀にベネディクト会の修道士によって創建された。十字架でドラゴンを打ち破った伝説で知られるアンティオキアの聖マーガレットに捧げられたことからこの名が付けられた。現在の建物は1486~1523年にかけてヘンリー7世の命で建てられもので、隣接の鐘楼はジョン・ジェームズの設計で18世紀の建設だ。教区民や議員・貴族に人気の結婚式場で、洗礼や葬式なども行われている。

■構成資産

○ウェストミンスター宮殿、ウェストミンスター寺院及び聖マーガレット教会

■顕著な普遍的価値

○登録基準(i)=人類の創造的傑作

ウェストミンスター寺院はイギリスのゴシック芸術の変遷の歴史を伝える歴史的に重要で独創的な芸術作品である。

○登録基準(ii)=重要な文化交流の跡

中世イギリス建築への影響以外に、チャールズ・バリーとオーガスタス・ウェルビー・ピュージンの作品に影響を与えることで19世紀のゴシック・リバイバル様式を主導する役割も果たした。

○登録基準(iv)=人類史的に重要な建造物や景観

ウェストミンスター修道院・宮殿と聖マーガレット教会は9世紀にわたる議会君主制の特徴を具体的な方法で示している。王室の墓、チャプター・ハウス、ウェストミンスター・ホール、上院・下院は驚くほどの広さで、あふれるほどの芸術作品が調和し、イギリスの歴史を物語っている。

■完全性

資産には顕著な普遍的価値を表現するすべての要素が含まれており、法的に保護されている。2008年に資産の若干の拡大が承認され、構成要素がひとつに統合された。ただ、資産の外にも関連する特徴があり、また景観に影響を与える要素が多分に見られることから将来的に対策されることが望ましい。

ロンドン中心部、テムズ川河畔にあるという位置関係と配置はこの遺産の価値の重要部分である。この場所は11世紀、エドワード懺悔王の時代から政治と宗教の中心であり、その歴史的重要性は建物の大きさと権勢によって強調されている。建造物群と空が奏でる景観は高く評価されており、他に類のないロンドンのスカイラインを形成している。この特徴的なスカイラインは周囲に高層ビルがそびえているにもかかわらず依然として明確に認識されるが、やはり高層ビルに対しては脆弱であり、これを維持する方法について議論が行われている。この問題が解決されるまでは完全性は脅威にさらされているといえる。

建物は継続的に使用されており、高い水準で維持されている。ウェストミンスター宮殿外壁の修復が行われ、セキュリティ対策が設置されたが、建物にはほとんど影響を及ぼしていない。ただ、施設周辺の交通量は過多で、完全性に悪影響を与えている。

■真正性

国の宗教・君主制・議会制度の力と権勢は、テムズ川岸のロンドン中心部にある建物の位置・サイズ・複雑な建築デザインと装飾・品質・素材によって明確に表されている。ウェストミンスター宮殿の時計塔ビッグ・ベンの音色はイギリスと民主主義の象徴として国際的に認知されている。すべての建物はその形状とデザインのみならず素材や原料についても高い真正性を維持している。

資産は主要な歴史的用途と機能を効果的に維持しており、ゴシック様式のウェストミンスター寺院は日々の礼拝の場として使用されつづけている。現在でも戴冠式の場であり、王室の結婚式や葬式、数々の国家行事が行われており、多くの偉大な作家・芸術家・政治家・科学者らが眠っている。ウェストミンスター宮殿はイギリスの二院制民主主義の拠点として継続して使用されている。現在はウェストミンスター寺院の一部である聖マーガレット教会は中世の教区教会であり、両院議員に使用されている。

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