スルツエイ島はアイスランド島の南約32kmに位置する周囲5.8km・標高155mほどの火山島で、1963年の海底火山の噴火で誕生した。当初から島への立ち入りを禁じて造山活動や海岸の侵食、生命の定着・拡散の様子が注意深く監視されている。
アイスランド周辺はユーラシア・プレートと北アメリカ・プレートの境界にあたる大西洋中央海嶺にまたがっており、世界でもっとも火山活動が活発な地域のひとつ。地下では熱されたホット・プルームが泡のようにマントルを湧き上がっており、地表にマグマを供給しつづけるアイスランド・ホットスポットを形成している。ここから西部火山帯と東部火山帯が枝を伸ばしており、スルツエイ島が所属するヴェストマン諸島火山系は東部火山帯の南端に位置する。アイスランドでは過去11,500年の間に44の火山システムが活動している。
島は全長2.9kmの海底尾根の山頂をなすスルツエイ海底火山の頂上に位置し、1963年の噴火によって海底から285mの高さまで盛り上がることで誕生した。この噴火は通常の噴火に加えて海水と溶岩が接触することで起こるマグマ水蒸気爆発を伴って激烈で、以来こうした噴火は「スルツエイ式」と呼ばれている。噴火は1967年まで継続した。
噴火当初から科学者によって監視され、研究者以外の立ち入りを禁止して島の観察が開始された。まもなくカビ、バクテリア、菌類を発見。1965年には最初の維管束植物(維管束を持つシダ植物や種子植物)であるカキレ・アルクティカ(オニハマダイコンの近縁種)が見つかり、最初の10年で12種が観察されて10種の定着が確認された。
1970年代には海鳥が見られるようになり、1980年代にはカモメのコロニーが誕生した。海鳥の定着に伴って鳥たちがもたらすフンやエサとなる魚などの有機物から土が形成され、さらに鳥たちは植物の種や昆虫を持ち込んで生態系はさらに豊かに発達した。一例がユキホオジロで、昆虫を食べる陸鳥の繁殖も観察された。2004年までに維管束植物60種、コケ類75種、地衣類71種、真菌24種が確認され、これまでに鳥類89種、昆虫を含む無脊椎動物335種が観察されている。鳥類については89種のうち海鳥45種・陸鳥44種で、12種が島で繁殖し、57種についてはアイスランド外で繁殖して渡ってきている。
海洋生物については1964年当初から確認されており、海岸の60%で藻類が観察されている。これまで水深15mまでの間に80種の大型藻類と180種の底生動物が確認されている。海洋哺乳類については1983年にアザラシの繁殖がはじまり、近海ではシャチ、ミンククジラ、ネズミイルカなどが観察された。
噴火が終了するまでに1.1立方kmの噴出物が排出され、表面積は265haに及んだ。しかし、波や海流による海岸侵食によって島の面積は半減して141haとなり、東西1.33 km・南北1.8kmまで縮小した。今後も2/3が削り取られ、核となる部分のみが残ると予想されている。島と生態系の形成はいまなお続いている。
本遺産は登録基準(viii)「地球史的に重要な地質や地形」でも推薦された。しかし、自然遺産の調査・評価を行っているIUCN(国際自然保護連合)は、地質・地形に関しては類似の火山島が多々あり、また今後侵食を受けて島の多くが消滅すると考えられることから、現状では重要な地質や地形としての価値は認められないという判断を下した。
1963〜67年の噴火によって誕生した新しい火山島で、以来、島の形成と生物の定着に関する研究に大きな役割を果たしている。植物・動物・海洋生物の進出プロセスについてユニークな科学的記録を提供しつづけており、世界でも数少ない植物の一次遷移についての長期にわたる研究の場である。地理的に隔絶しているだけでなく、その誕生時から法的に保護されており、人間の干渉のない自然のままの実験室となっている。その継続的な保護の成果として、スルツエイは長いあいだ生物学的コロニー形成に関する貴重なデータを提供しつづけている。
世界遺産の資産には島全体と周囲の海洋エリアが含まれており、スルツエイの生態学的プロセスの長期保存に不可欠なすべての地域が含まれている。スルツエイを形成しているひとつの要因はすでに島の面積を半分にした海岸侵食のプロセスであり、時間の経過とともにさらに2/3が除去され、もっとも耐性のあるコアのみが残ると予想されている。
島は国の保有で、誕生後まもなく法律による保護が開始され、現在はスルツエイ自然保護区に指定されている。資産には島の全域141haと周辺海域3,230haが含まれており、外側にバッファー・ゾーンも設定されている。長期の保護に必要な領域はカバーされている。